ダフロン

2019年02月03日

食べないお嬢と魔術学園の料理番/駿河ゲンゾウ


名門『クライエス魔術学園』は今や魔術よりも食堂の方が評判な学園。ところがただ一人、生徒会長レクティアはカイルの料理を口にせず…「食べたくないのよ、『人が作ったモノ』なんて!」幼い頃から狙われ続けたレクティアが信用するのは己のみ。しかし、彼女が最高峰魔術組織から抹殺対象になり

 いただきますは信頼の証

 魔術と包丁が交差する、新世代学園バトルファンタジー

 「食べないお嬢」じゃなくて、「ラーメン大好きレクティアさん」でいいんじゃないかなタイトル。
 客の笑顔が何より好きな料理バカの魔術学園の食堂で腕を振るう料理番の青年カイルが、生徒会長レクティアとぶつかり合いながら、彼女の心の傷を料理で救っていくストーリーに感動しました。
 他人の作った料理を食べるということは、お互いの信頼関係があってこそ。まったく納得しました。

 過去のトラウマから他人の作った料理を食べられない料理恐怖症ともいえるレクティアと、誰かに美味しい料理を食べさせるのが大好きなカイルとでは水と油で、互いの事情を知らない間は巡って衝突が絶えないんですが、レクティアの窮地を救ってからのデレっぷりは見事でした。これはいいチョロイン。
 エリートお嬢様キャラかと思ったら、ただの腹ペコキャラだった件。完全に餌付けされておる。

 魔法の使えないただの料理番かと思ったら実は……というのはよくある展開ですが、教官系としたら成長や教導パートが足りないし、異世界グルメものだったらもっと品数やキャラを出してリアクション芸を畳み掛けないとインパクトが弱いしで、一番重要なピース欠けていてどっちつかず。流行りのジャンルを合体させてみたけど、本来の良さを打ち消し合ってしまった感じ。作品が求めた味がわからぬ。

 キャラクターは魅力的ですが、ストーリーも世界観もシンプルだし、ちょっと単調に思えてしまう。
 もっとキャラクターや組織を増やして人間関係、勢力図を複雑にするとか、あるいは世界観をもっと『料理』というテーマに寄せて、「この世界の均衡は、美食倶楽部が支配している」とか、ありえない設定にするほうが個性が出そう。いかにもファンタジア大賞っぽいんですが、もっと冒険してもよかった。
posted by 愛咲優詩 at 00:00| 富士見ファンタジア文庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月05日

人形剣士<ドールブレイブ>は絶ち切れない 一等審問官ガルノーの監視記録/林星悟


人形剣士ブレイスにはある疑いが掛けられている。人形のリネットが、実は人間なのではないか、という疑いだ。本物の少女を操っているのなら、それは洗脳魔法とされ重大な犯罪行為に値する。悪行の証拠を掴むためにガルノー審問官は監視任務に当たっていた。そんな中、世間を騒がせている幻術使いのバーズ捜索に同行することに。

 憎悪の鎖を絶ち切る絆

 攻撃魔法が禁止された世界で人形を操り、剣を振るう人形剣士が繰り広げる異世界ファンタジー。

 登場人物がみんな狂信者と紙一重じゃないですかやだー。やはり宗教は悪なんだ……。
 攻撃魔法が禁止された世界で魔獣退治を生業とする人形剣士ブレイスと、彼に違法使用の容疑をかける審問官ガルノーが、魔導審問会により断罪される違法魔導士たちと関わっていくなかで魅せる信念と絆が尊かった。正義とは悪とはなんなのか、善悪の価値観が散れ散れになってわからなくなります。

 魔獣から人を守るためでも、悪人の仇討ちでも、どんな理由があっても攻撃魔法を使えば、情状酌量もなく死罪という魔導審問会の独善的な正義の押し付けに反吐が出ますね。新米審問官に罪人を処刑させる「最初の正義」とか、罪の意識を共有させて議論から目を逸らせてるんでしょう。カルト宗教と手口が同じなんだけど、ヒロインのガルノーや大衆たちが疑いもなく盲信してるから気持ち悪いんだ。

 犯罪者として魔導審問官に裁かれる魔導士たちも、過去に大切な人を審問会に殺された遺族だったりで、義憤に燃えるのも共感できてしまって、騒動の真相に迫っていくほどやるせなくなります。
 それで主人公のブレイスがマトモであればいいんだけれど、彼は彼で自分の人形のことしか頭にないし、犯罪者を叱責こそすれガルノーたちの主張を咎めることもないから収拾がつかないんだよなぁ……。

 ブレイスが犯罪者を改心させて、審問会の正義に疑問を投げかけるみたいな展開を期待したんだけど、結局、悪は悪のままだし、ガルノーの歪んた正義には振れず仕舞いなのでちょっと肩透かしな感じ。
 リネットのスーパーモードとか、正直それはいいんですよ。世界観や設定も興味深いんですけど、読者のフラストレーションを溜めに溜めておいて発散に失敗してるのが、勿体無い作品だなぁと思いました。
posted by 愛咲優詩 at 00:00| MF文庫J | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月04日

青色ノイズと<やきもち>キラーチューン ワケありJKと始める男装V系バンド/総夜ムカイ


自分の声にコンプレックスがある男子高校生・大上透。かつて軽音楽部のライブで散々な思いをしたことで音楽をやめてしまう。その彼を「ボクは、君の歌声が忘れられないんだ」とバンドに誘う謎のイケメンが登場!? なんと、その正体はクラスで一番地味な女子・音子が男装した姿だった!


 弱い自分を救う歌

 ワケあり少年少女が音楽で過去の弱い自分を塗り替える学園青春ヴィジュアル系バンドストーリー。

 ヒロインがみんなカッコ可愛い! 揃いも揃って性格が面倒くさいけど、そこがいい!
 生まれつきの高い声にコンプレックスがある主人公・大上透が、クラスメイトの地味女子・化野音子にに誘われて男装Vバンドを組み、音楽を通じてトラウマを乗り越えていく姿に心を揺さぶられました。
 誰でも自分自身に嫌いなところがある。そんな劣等感や諦念を彼らのサウンドがぶち壊してくれます。

 普段は内気で人見知りな音子が、ウィッグをつけて男装をした途端に人懐っこくて陽気な王子様に早変わりするギャップが面白くて、ガーリーな魅力とボーイッシュな魅力が共存しているキャラが新鮮。
 妙に音子に信頼されてしまい、表面では適当にあしらいながらも、やたらと無防備で距離感が近い彼女に内心でドキドキしてしまってバンドの練習どころではない透の男心も初々しくて笑いを誘う。

 さらにメンバーのライオンや神原小鳥、演奏の腕前には十分だが、透と音子と同様にメンタルの問題を抱えていて、似た者同士で友情の輪が広がっていく展開に胸が弾む。けれど次第に人間関係のすれ違いを起こすようになって自分を追い詰めていってしまう光景は、やるせなくなりました。男女間のもつれ、傷つきやすい繊細な人間ばかりが集まるのもバンドあるあるなんでしょうか。

 自分に自信を持てない。弱い自分が嫌い。でも、ヴィジュアルという仮面をつければ、違う自分になれる。劣等感をエネルギーに変えて、虚勢でも勇気を出して嫌いな自分を受け入れて、仲間と支え合って舞台に立った透たちの歌だからこそ、文字だけでも読んでいて心に響くロックと感動がありました。
 本来ならライブのところで終わっていいんだけど、結末の絶妙な引きはずるいな。続きに期待。
posted by 愛咲優詩 at 00:00| MF文庫J | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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