ダフロン

2013年08月08日

睦笠神社と神さまじゃない人たち/深沢仁

4800215137睦笠神社と神さまじゃない人たち (このライトノベルがすごい! 文庫)
深沢 仁 Nardack
宝島社 2013-08-10

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高校一年生の冬基は、睦笠神社の神主である祖父と二人、神事をこなしつつ平穏な日々を送っていた。そんなある日、冬基は弱ったイタチを助けたのだが……。イタチは謎の美少女ライへと変化、神社に居座ってしまう。美少女の登場と共に息を潜めていた物の怪たちが暗躍を始め、奇妙な事件が起こり始める……。

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 朝焼けのぬくもりと 朧雲のやさしさと

 神社の息子と天から落ちてきた美少女と物の怪たちのちょっと不思議なハートフルストーリー

 いやー癒されたわーめっちゃ癒されたわー。心が和みすぎてヘニョヘニョになったわリラクゼ効果抜群。
 ある雨の日、睦笠神社の宮司の孫・冬基が、天からやってきたというイタチ少女・ライを拾い、神仏や物の怪の世界に触れるようになり、物の怪絡みの騒動に巻き込まれていく物語が夢のようで陶然としました。
 前作の2作品とは逆に作風のトゲトゲしさが抜けて、殻を剥いて煮た栗のようなまろやかなお手前でした。

 幼き頃の事故により、動物や物の怪に好かれやすい朧の気を纏うようになった冬基の、よく言えば達観して大人びている、悪くいえば若さの枯れたキャラに呆れつつも、心優しく穏やかな雰囲気に惹かれますね。
 妖怪とは知らずイタチの姿で拾われた当初は警戒心の激しかったライですが、感情が希薄で自分に無頓着な危なっかしい冬基のことが次第に放っておけなくなって、強引に神社に居座ってしまうところが微笑ましい。

 睦笠神社の跡継ぎとして神事を淡々とこなす平穏な日々が続くのだけれど、時折訪れては元気と笑顔を振り巻いていく幼馴染の綾乃や物の怪絡みの騒動が巻き起こったりといった、ちょっとした刺激が丁度いい。
 物語が進んでいく内に明かされていく幼い冬基の身に起きた痛ましい過去には、胸が締め付けられる。冬基を大切に思っていてくれる人たちが周囲に居るのに、冬基自身が自分を大切にしてないのでは、悲しいよ。

 まあこの作品で一番萌えて好きなキャラは、祖父ちゃんだけどな。口下手だけれど孫のことを想って、妖怪に関わらせたくないと厳しいようでライとの居候を許してしまう甘々なツンデレジジイが可愛すぎて困る。
 お人好しの甘さは祖父譲りか、物の怪をどんどん匿ってしまう冬基のせいで、ますます賑やかになっていく睦笠神社ですが、そうした物の怪との関わりで人並みの感情を取り戻していって欲しいですね。

2013年07月06日

アニソンの神様 score.02/大泉貴

4800205409アニソンの神様 score.02 (このライトノベルがすごい! 文庫)
大泉 貴 のん
宝島社 2013-07-10

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セカンドライブに向けて準備をするエヴァたちだが、ドラムの京子は浮かない顔。彼女には中学生バンド時代の苦い過去があった。2巻で登場するアニソンは誰もが聞いたことがあるようなタイアップ曲が中心。最新アニソンも混じえつつ、「UVERworld」や「FLOW」、「B'z」の楽曲も登場! 心にしみるアニソンを届けます!

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 最高の思い出を

 アニソン好きな留学生と音楽に悩むギター少年がおくる歌とバンドと狂騒の青春エンターテイメント

 アニソンはすべてのジャンルを取り込んで進化する! アニソンに限界は無いんだゼーット!∩・`д・´)っ
 ライブハウスへの出演が決まったエヴァたち"レーゲン・ボーゲン"。その参加バンドの中にドラムの京子がかつてバンドを組み、本音を言えずにすれ違ったまま喧嘩別れしてしまった親友・椎菜を見つけ、苦悩と葛藤に末に相手と再び向き合い、アニソンを通してお互いの今を認め合い、受け入れていく友情が胸に沁み入ります。

 大成功した文化祭でのライブの熱気と興奮が忘れられず、次なるライブハウスでの演奏へ意欲を高めていくエヴァたちですが、いまだにアニメ好きを公言できない京子は、周囲に自分を偽っていることに後ろめたさを抱え続け、それが原因でクラスメイトやエヴァたちともぎくしゃくし始めて、さらに自分を追い詰めていく姿がもどかしい。
 弦人も軽音楽部と和解しようとして、エヴァの存在がそれまでの彼らに変化を与えているのがわかります。

 京子が篭っている殻を真正面から体当たりで打ち破るエヴァの行動力が眩しい。ライブに向けて琴音がネットでプロモーションビデオを打ったり、各人ができることで盛り上げて一体となっていく勢いが微笑ましい。
 自分の音楽に自信を持っている椎菜に対し、彼女も聞いたことがあるであろうタイアップ曲やアレンジ曲のアニソンをぶつけて、かつて果たせなかった約束と大切な思い出を呼び覚ましていく光景が心を揺さぶった。

 ライブシーンは、原曲とOPムービーを流しながら読みました。音楽と文章が渾然一体となって、脳汁ダバダバでますね。拳を突き上げて跳ね回りたくなります。こんなテンションになるのはこの作品だけですわ。
 あらゆるジャンルを取り込むアニソンの力。そのアニソンすらも取り込んでしまうライトノベルの力を感じました。京子回であり+小松の株がちょろっと上がりました。次回は、琴音ちゃん回ですね楽しみです。

2013年06月04日

おんせん部!/河里一伸

4800212286おんせん部! (このライトノベルがすごい! 文庫)
河里 一伸 しまちよ
宝島社 2013-06-10

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幼馴染の少女・原田由香から、おんせん部に誘われた主人公・高宮健吾。中学の頃に野球で痛めた腰を湯治により癒したことのある健吾は、入部を快諾する。しかし、おんせん部は女湯への到達を目指す男子と、それを阻止する女子による競技「温戦」に青春を燃やす部活動だった!?

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 浴衣は戦士の戦闘服

 桃源郷(=女湯)到達を目指し少年と少女たちが激しい戦いを繰り広げる温泉バトルコメディ

 なんともバカバカしい! 実にバカバカしいが、これぞ男の浪漫! 浪漫にかける男たちの姿に泣いた。
 女湯を覗く権利を賭けて、女子と男子に分かれて戦う「温戦」部に入部した主人公・健吾が、幼馴染の由香を始めとする美少女たちの裸見たさで有名温泉地を舞台にガチンコバトルに奔走する姿が可笑しかった。
 たかが覗き、されど男の意地と女の誇りをかけた争い。互いに一歩も譲らないぶつかり合いに燃えます。

 男が勝てば女湯を覗ける権利が得られ、女が勝てば宿泊費&お土産代を押し付けることができる伝統競技「温戦」ですが、浴衣の帯を取られると失格や、写真撮影はNGなど定められたルールが様々あり、男としてエロい欲望に燃えつつも、女性陣への敬意と節度を忘れない姿が爽やかで、女性陣も男子相手に気後れせず余裕の窺える態度が勇ましくて、お互いに後ろめたさなく正々堂々、しのぎを削る戦いぶりが興奮を掻き立てられますね。

 才色兼備の部長・麗那が率いる女性陣のチームワークに一度も勝てていない健吾たち男性陣ですが、リベンジを誓い特訓を重ね、他の高校との学校対抗戦では、相手校の苛烈な攻撃に対して、自分たちには何のメリットもない戦いであるにも関わらず、ヒロインたちの裸を自分たち以外の誰にも見せてたまるかと、必死に食らいついていく男気に思わず応援したくなりました。バカだけれどそんな男の子らしい健吾が格好よかったです。

 ただ学校対抗戦で、金銭の授受が禁じられているのであれば、女性陣はリターンがなく覗かれるリスクを負うだけなので、試合を受ける理由がないような気がするんですが、そこのところ説明が不十分じゃないかなぁ。
 健吾たちにしてみれば、湯上りの浴衣姿の女の子と一緒にお泊りってだけで、男としては十分すぎるくらいリターンを頂いてますね。続くのであれば、戦いだけでなく部員たちの恋愛関係をもっと見せて欲しいです。

2013年06月02日

スクールライブ・オンライン/木野裕喜

4800211581スクールライブ・オンライン (このライトノベルがすごい! 文庫)
木野 裕喜 hatsuko
宝島社 2013-06-10

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MMORPG《3R》。授業にオンラインゲームを取り入れ、大きな成果を上げた私立栄臨学園。だがその結果、今日では生徒たちの間に「レベルこそがすべて」という風潮が広がっていた。新藤零央はそんな現状に疑問を抱き、ひとり孤独なプレイを続けていたが、ある日の大型アップデートを境に、彼の学園生活は大きく変わり始める。

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 爆ぜろ効率厨!弾けろゲーム脳!

 リアルとゲームで想いが交錯する少年少女たちの新感覚学園オンラインゲームストーリー。

 スクールカースト最底辺のぼっちが、リア充どもの驕りを叩きのめす爽快感!
 授業にMMORPGを取り入れた高校で、落ちこぼれの主人公・零央が、幼馴染や気の合う仲間たちとギルドを作り、「レベルこそすべて」という価値観に縛られたゲーム世界の改革に踏み出していく姿に胸が躍りました。
 流行りのネトゲ系かと思いきや、意外や意外、読み手の心に訴えかけてくるガチな学園青春ドラマでした。

 学校の成績がMMOPRGでの経験値に反映され、ゲーム実績が総合評価となる設定が妙に生々しくて面白い。
 けれど生徒の大半は成績に繋がるレベル上げのための経験値稼ぎ、いわゆる効率厨ばかりで、楽しく刺激的なゲーム体験を求めて入学した生粋のゲーマーである零央の理想とは相容れなくて、ギルドにも入らず、次第に孤立していき、それが原因で幼馴染の沙耶とも口論になり、落ちこぼれていく様が哀愁と共感を誘います。

 しかし、あくまで趣味だった零央のレコード集めが、大型アップデートで一躍脚光を浴びるようになり、にわかに上位プレイヤーたちが下心を持って擦り寄ってくる光景がいやらしくて、見苦しいったらありゃしない!
 気持ちのすれ違っていた沙耶とも仲直りし、転校生で初心者のユマを含めた三人で、再スタートを決意し、理解者を得たことで失っていた自信を取り戻し、無気力なそれまでと見違える零央の雄姿に瞠目させられました。

 レベルやギルドというのは、本来はゲームが下手な人でも、経験値を稼いで、徒党を組めば強敵を倒せるという、弱者救済処置なのですが、それが原因でレベルの高い者が低い者を見下す『レベル差別』が蔓延している現状は、不愉快でなりませんね。レベルの高い奴は、低い奴を助けるのが当たり前だろうがっ!
 展開は少しスローペースで、ようやくスタート地点といったところなので、これからの躍進に期待したい。

2013年04月03日

魔法少女育成計画 episodes/遠藤浅蜊

480020934X魔法少女育成計画 episodes (このライトノベルがすごい! 文庫)
遠藤 浅蜊 マルイノ
宝島社 2013-04-10

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『魔法少女育成計画』『魔法少女育成計画restart』で、過酷な死のゲームを繰り広げた魔法少女たち。そんな彼女たちに魅せられた読者の声に応えて、本シリーズの短編集がついに登場! 少女たちのほんわかした日常や、不思議な縁や、やっぱり殺伐とした事件などなど、エピソード山盛りでお届けします!

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 乙女たちの魔法少女な日々

 魔法少女オールキャストで、みんな(一部を除き)仲良く平和にイチャイチャしていました。
 『魔法少女育成計画』に参加させられ、非業の死を遂げていった幾人もの魔法少女たちの日常の姿が描かれ、目立たなかったキャラにもスポットが当たって、初めて見えてくる意外な一面が可愛らしかった。
 日常の中の、意外なところで意外な交流を持っていた魔法少女たちの繋がりも面白かったです。

 本編ではあまり出番のなかったねむりんが、夢の世界で人々を助けたり、他の魔法少女を導いたり活躍してて、実は影響を与えていたんだなぁというのが窺えて、ゆったりしたキャラにほっこりしました。
 ラ・ピュセルが他のヒロインをぶっちぎって可愛いくて困る。男なのにな……。いや、むしろ男だからこそ魔法少女への変身に悩んだり、女物の服を買いに行ったりする姿が萌えるのか。ピュア夫あざとい。

 やや悪役気味に描かれていたマジカロイド44やチェルナーマウス、のっこちゃんも現実世界での暮らしぶりには人情味が感じられた。アカネさんはもうちょっと本編でも出番あってもよかったと思いますね。
 ガチ悪役のカラミティ・メアリさんなんかは今回もガチ悪役でしたけど、キークがデイジーを最初に罠にかけるようなことをした理由が少しわかった気がしたなぁ。ルーラも良い面ももっと描いて欲しかった。

 リップルやトップスピード、ラピス・ラズリーヌ、など、本編でもカッケー連中はカッケーかったです。
 マスクド・ワンダーも、格好良い魔法少女になれる素質を持っていただけに、無残な最期を迎えてしまったのが惜しいなぁ。メイン以外の魔法少女もさりげなーく登場していたりするので、探すのも楽しい。
 このラノサイト上で掲載された短編に書き下ろしが付いているので、webですでに読んだ人も必見です。

2013年02月04日

ドラゴンチーズ・グラタン/英アタル

4800205298ドラゴンチーズ・グラタン (このライトノベルがすごい! 文庫)
英 アタル 児玉 酉
宝島社 2013-02-09

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病気の少女クレアを助けるため、マンドラゴラを求めて旅立つシェフ見習いの少年レミオ。彼は、食で病気を治療する医学――食療学を極める夢を抱いていた。しかし、旅先でアイソティアの美少女アトラと、聖獣殺しバレロンの争いに巻き込まれ、封印していた過去を解き放たざるを得なくなり

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 笑顔を作る料理人

 食で病気を治療する食療学を志すシェフ見習いの少年の医食ファンタジー。

 お客の病を治すために食材を求めて戦う料理人という、異色の、いや、医食のファンタジーでした。
 商業都市ロイスタで評判の大衆食堂のシェフ見習いの主人公・レミオが、持病を抱える少女クレアと出会い、彼女を勇気づける料理の素材を求めて店を飛び出し、繰り広げられる冒険に胸が躍りました。
 今回も、このラノ文庫編集部さまから献本を頂きました。いつも、ありがとうございます。

 食療学という栄養学を学びながらも、まだまだ腕の未熟な下働きのレミオ少年と、身寄りのない彼をシゴキつつも大切に想っているヴィーディル食堂の店員たちの姿がひとつの家族のようで心温まります。
 生まれつきの体質でほとんど食事ができず、未来を諦めかけている少女クレアのために、料理人として何か出来ないかと、危険な食材探しの旅に出るレミオの優しさと思いやりが胸を打ちました。

 マンドラゴラを求めて自生地の森を目指したものの、近隣の集落を荒らし回る暴れドラゴンと、それを狙う密漁団と謎の司祭、ドラゴンを保護するアイソティアの少女の抗争のど真ん中に飛び込んでしまい、料理人の身には過ぎた忌むべき力を封印から解き放って戦わなくてはいけなくなってと、王道ファンタジー的なアクション要素もしっかり盛り付けてあって、読み手の食欲を刺激します。

 これはいい飯テロ。料理に関連付けて魔法の設定も練ってあるのも興味深い。
 ただバトルシーンで文章に勢いがあるものの、視点の切り替えに戸惑う部分や、主人公のレミオの境遇や能力についても、ちょっと不明瞭な部分がありました。今後、細かく描いていくつもりなのでしょうか。
 読んでいるとお腹が空いてくるし、自分でも料理を作ってみようかなと思わせてくれる一品でした。

※ちなみにステマとか最近うるさいので、今回から個人的にPRタグ作りました。これは見えてるステマ。

2013年01月10日

オレを二つ名で呼ばないで! 2/逢上央士

4800206456オレを二つ名(そのな)で呼ばないで! 2 (このライトノベルがすごい!文庫)
逢上 央士 COMTA
宝島社 2013-01-10

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黄金杯での活躍から、様々な部活動に勧誘された新たちだが、しっくりくる部活動がなかったため、二つ名研究会“ツナ研"を作ることに。部室を欲するツナ研のメンバーたちは、部活動対抗戦(クラブ・スクランブル)という団体戦の大会に出場することになるのだが

 剣が舞い、ボールが踊る

 不名誉な二つ名を付けられてしまった少年が、もう新たな二つ名を求めて戦う学園異能バトルもの

 いやぁ、素晴らしい剣劇でした。ところでこのサッカーバトル、こいつをどう思う?すごく…超次元です。
 熱心過ぎる部活動の勧誘に音を上げた主人公・新が、友人たちと新しい部活を作り、部室を得るために部活動対抗戦にエントリーし、さらに新しい二つ名を求めて武器能力者限定の斬雨杯にも参加して、二つのビックタイトルマッチで激突する能力者たちの知恵とスキルを駆使した好勝負に燃えました。

 黄金杯の優勝者として全校生徒に名前が知れ渡るようになり、それとともに不名誉な二つ名までもが浸透し始めて、周囲に一目置かれつつも偏見と誤解が広がっていく光景が可笑しいです。
 人助けに能力を使ったり、『斬雨杯』に向けて新しい二つ名の特訓を重ねるうちに無理がたたって倒れてしまうのは予想できましたけど、彼らのパワーの源ってやっぱりアレなソウルっぽいソレなんだ……。

 家族の問題を抱えてスランプ気味な静華をフォローしていくうちに、彼女の内に秘めた苦悩や葛藤が暴走して、普段は冷静で理性的な彼女が豹変してしまう姿は辛かったけれど、それを受け止める新△!
 静華を止める反動で能力が使えなくなった新だけれど、部活動対抗戦でも仲間たちをまとめて、作戦を練って、チームの司令塔としても活躍してて、ただの俺TUEEEではない彼の求心力に魅せられました。

 ようやく能力の秘密にも焦点が当たるようになってきましたが、ネーミングセンスが来い。
 部活動が彼のハーレムと化していきそうで怖い。まあ男キャラも多いですし、脇役でも光る見せ場がしっかりとあるのが好ましいですね。玉田はいいところ持っていきすぎー。あの能力も使い勝手いいよなぁ
 静華さんのコスプレ姿が可愛すぎました。ご神体にしよう(提案) 次回、生徒会長の悪巧みに期待。

2012年12月25日

星とハチミツの存在証明/藤八景

4800204364星とハチミツの存在証明(テスタメント) (このライトノベルがすごい!文庫)
藤八 景 よー
宝島社 2013-01-10

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一番星光世は、ヒーローだった母を失った。それから11年、平穏な高校生活を送っていた彼の前に、非日常は何の前触れもなく訪れる。異形の襲撃者から光世を救った、蜂蜜色の髪の少女が差し伸べた手。それは、存在の力“ザイ"をめぐる、証明者と修正者との終わりなき戦いへの扉だった――!

 正義に輝く一番星

 存在の力"ザイ"をめぐる、証明者と修正者との戦いを描いた王道学園バトルストーリー。

 すげー超人バトル漫画感。キャラクターがトチ狂ってぶっ飛んでるけれど、実に王道バトルものでした。
 他人の存在の力"ザイ"を奪う怪人「修正者」と、それと戦う「証明者」との戦いに巻き込まれた主人公・光世が、「修正者」と「証明者」の共存できる世界を目指して奔走する姿が格好良かったです。
 今回も編集部から献本いただきました。ありがとうございます。っていうか、早いな! 年末だからか。

 存在感の強い者ほど、強力な存在の力"ザイ"を持つために、敵も味方も見た目からして自己主張の激しい強烈な個性のキャラクターが揃っていて、どいつもこいつもアクが強いの印象的でした。
 主人公の光世は外見は派手なんだけど、中身はそれなりの常識人で、変わり者だらけの友人たちに振り回されつつ、次第にグループの中心となって仲間との絆を結ぶ役割になっていくのがよかった。

 「証明者」として戦っていくうちに敵である「修正者」側の境遇を聞いて、「証明者」が「修正者」を滅ぼそうと戦いを挑んでくるからこそ、相手も"ザイ"を奪って強化せざるを得ないという事実に気がつき、そうした負の連鎖を断ち切るために、「証明者」と「修正者」の戦いを止めようと理想論を訴える光世は、戦士としては甘いんだけれど、ヒーローとしては正しくて、その如何にもなジャスティス論理が若々しくていいね。

 ストーリーが進んでいくうちに、敵と味方で悪と正義が入れ替わるのはお約束展開だとは思ったけど、単純な勧善懲悪にならずに、「正義とは何か」を訴えかけてて、言ってみれば少年漫画のノリでした。
 戦闘シーンが厚くて熱いのはいいんだけれど、ヒロインと同居生活してるんだし、もうちょっと女王様と下僕の関係から進展して、恋愛要素があっても良かったような。次回はその辺りのテコ入れが欲しい。

2012年12月09日

紅炎のアシュカ/紫藤ケイ

4800203910紅炎のアシュカ (このライトノベルがすごい!文庫)
紫藤 ケイ Nardack
宝島社 2012-12-10

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かつてこの地上を荒らし回った《根絶者》アシュバルド。その化身を自称する少女アシュカは、《駆神人》の少年ラティス、《小妖精》のリルと共に、街から街へと旅を続けていた。他の化身たちと出会うために――。

 強さは人生を孤独にする、弱さは人生を豊かにする

 人と精霊が共存する世界で魔王の化身の少女が同胞を求めて旅をする異世界ファンタジー。

 魔王アシュバルドの欠片の化身である少女アシュカが、同胞を探す旅の途中で人間や精霊たちとの出会いを通じて、周囲への思いやりや他人の痛みを理解して成長していく姿が微笑ましかったです。
 これまでのハードコアな世界観を持った二作品とは真逆に、ファンタジーと言えばRPGという最近の若い世代に受け入れやすいように工夫が施された入門用ファンタジーといった趣でした。

 ヒロインであるアシュカは、5つもの街を滅ぼした魔王アシュバルドの化身といっても、肉体の末端の末端で、見た目も強さも常人とあまり変わりがなく、世間知らずであっても素直なところが可愛かった。
 同胞を探し出して魔王を復活させようとするあまり、旅の同行者であるラティスやリルを困らせることもあるけれど、心根は優しく正義感に熱くて、邪悪な存在とは思えない姿に戸惑いますね。

 一方で魔王の化身を名乗る同胞たちの中には、自分の力に驕るあまりに周囲の人間たちを傷つけることを躊躇わない者もいて、そうした化身たちに故郷や大切な人を奪われる不条理がやるせない。
 邪悪な同胞を倒すため、化身であるアシュカ、ラティスたち駆神人、人と敵対する魔精霊たち、弱い者たちが種族の垣根を越えて力を合わせて強敵を倒す展開は王道でしたが胸が熱くなりました。

 魔王アシュバルドがどうして禁術をかけて自分の身体を裂いたのかという理由にも、悲しいエピソードがあって、強いからこそ間違いを犯してしまう、間違いを理解できない、強者の悲哀が虚しかった。
 弱いからこそ別け隔てなく他人と繋がることできるアシュカは、魔王アシュバルドが望んだ理想で、自分の復活よりも大切なものを見つけたアシュカが素晴らしかった。クセのないファンタジーで読みやすかった。

2012年12月07日

魔法少女育成計画 restart 後/遠藤浅蜊

4800205255魔法少女育成計画 restart(後) (このライトノベルがすごい!文庫)
遠藤 浅蜊 マルイノ
宝島社 2012-12-10

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ひたすらに激化していく、囚われの魔法少女たちによる生き残りゲーム。残酷かつ一方的なルールの下で、少女たちは迷い、戦い、一人また一人と命を落としていく。警戒すべきは姿の見えぬ「マスター」か、それとも背後の仲間たちか。強力無比な魔法が互いに向けられる時、また一人新たな犠牲者が生まれる。

 この中に1人、魔王がいる!

 本物の魔法の力を得た十六人の魔法少女による理不尽で無慈悲なマジカルサスペンスバトル。

 ゲームマスターは完全に参加者を皆殺しにかかってるな! このエンターテイメント、最高に面黒い!
 ゲーム後半戦。犠牲を出しながらも全員で力を合わせて最終ステージにたどり着いたものの、誰もが思いもよらぬ真実を突きつけられ、裏切り者を探して猜疑心の泥沼の修羅場に陥っていく光景にガクブルです。
 ゲームクリアをちらつかせておいて、寸前で取り上げる。その外道なやり口、嫌いじゃないわ!

 生き残った魔法少女たちがようやくクリア目指してひとつにまとまって、これまでの教訓を活かして最終ステージまで来たものの、その努力と絆を嘲笑うかのような超展開には、もはや笑うしかないwww
 クリア目前で希望を断たれて、お互い次第に冷静さを失っていき、脆くも崩れていく魔法少女たちの仮初めの友情がやるせなくもあれば、窮地に伏してなお失われぬ真の友情もあり、涙を誘います。

 計画のどこかしらに"音楽家"の影響が絡んでるだろ!とは思ってましたが、明かされた事の真相には、彼女がこれまでしてきたことの罪深さと、周囲に残した傷跡の深さに改めて戦慄しますね。
 忘れていた過去の自分の過ちと向き合い、覚悟を決めた魔法少女同士の問答無用の殺し合いは手に汗握りましたが、『戦わない魔法少女』ならではの水面下の駆け引きにも魅入りました。

 正しい魔法少女と間違った魔法少女を選別するためとはいえ、他人を守るために身を挺して犠牲となった魔法少女たちもいて、騙していた者も単なる報酬目当てや己の欲望のためだけではない、絶対に死ねない理由があったりして、一人の悪意に歪められたそれぞれの現実での境遇が切なかったです。
 コミカライズが決定したらしいですが、小さな女の子が知らずに読んでトラウマ負ったらどーすんだろ……。

2012年11月09日

千の剣の権能者/紫藤ケイ

4800203899千の剣の権能者(エクスシア) (このライトノベルがすごい! 文庫)
紫藤 ケイ キムラダイスケ
宝島社 2012-11-09

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権能――それは、特定の事物を自在に操る力。世界は、権能を持つ〈権能兵〉を有する帝国によって統治されていた。“英雄"を求める青年クオンは、〈権能兵〉でありながら帝国の支配を受けない少女クアディカと出会う。彼女は〈剣〉の権能を振るう。その手に、失われた魂を取り戻すため

 英雄は此処にいる

 権能を宿した少女と英雄を渇望する青年が、弱き者を守るために立ち上がる異世界ファンタジー。

 実に生々しい血なまぐさいスプラッタなんだけれど、それでも救いが感じられる清々しさがある。
 異能を宿した権能兵を率いる帝国によって牛耳られた世界で、唯一命令に外れた権能兵の少女クアディカが、弱き人々のために自らを顧みずに戦う彼女の献身さに心を打たれました。
 またしてもハードコアなファンタジーで、この作者はブレないな。無骨な作風だがそれがいい。

 幼い頃に幼馴染を救えなかったことに絶望し、犯罪組織専属の暗殺者に身を落として反帝国運動を続ける主人公クオンの、それでも誰かを無条件で助ける"英雄"の存在を待ち望む願いが切ない。
 そんな中、本来逆らえないはずの帝国騎士の命令に逆らい、無辜の民を守ろうする権能兵クアディカはまさにクオンの理想の体現者で、希望を抱いて親しくなるにつれ明らかになる事実に逆に打ちのめされた。

 この世の不条理によって家族や人生、己の魂さえも奪われ続けたクアディカこそ"救われるべき者"なのに、何も知らない民衆から勝手な祭り上げられ、期待を背負わされる彼女の姿がやりきれない。
 失われた魂を取り戻し、権能によって狂い死ぬとしても、それが誰かのためになるならばと、ただひたすらに人々のために命をかけるクアディカの壮絶な死闘は"英雄"と呼ばれるに相応しい偉業でした。

 人々を助けるというクアディカの奉仕精神が、最後には彼女の本当の思いから来ているとわかり、感慨もひとしおでした。読者の期待を一旦上げて、つき落として、また上げる。汚いが上手いな。
 人を助けるのは当然のことなのだけれど、実際に出来る人は少ない。それができるからこその英雄。あまりにも報われない結末だなぁと思えば、救いのあるハッピーエンドで心の底から安堵しました。

2012年11月07日

魔法少女育成計画 restart 前/遠藤浅蜊

4800201829魔法少女育成計画 restart (前) (このライトノベルがすごい! 文庫)
遠藤 浅蜊 マルイノ
宝島社 2012-11-09

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「魔法の国」から力を与えられ、日々人助けに勤しむ魔法少女たち。そんな彼女たちに、見知らぬ差出人から「魔法少女育成計画」という名前のゲームへの招待状が届く。先に進むたびに大きな自己犠牲を要求する、理不尽なゲームに囚われた16人の魔法少女は、自分が生き残るために策を巡らせ始める

 強くなければ生きていけない

 本物の魔法の力を得た十六人の魔法少女による理不尽で無慈悲なマジカルサスペンスバトル。

 可愛らしい魔法少女たちが競い合いながら次々と無残に命を落としていくこの愉悦! 最高だな!
 ゲーム世界に閉じ込められた十六人の魔法少女が、パーティを組み互いに協力し、勢力間で駆け引きを繰り広げながら、莫大なクリア報酬と生き残りをかけて攻略に挑んでいく展開から目が離せない。
 またしても理不尽なデスゲームに陥った少女たちの絶望と阿鼻叫喚がなんと心地良いことか。

 モンスターを倒したり、クエストを達成したり、アイテムを揃えたり、ストーリーを進めエリアを開放したりと、オンラインRPGのような仮想空間に強制的に飛ばされた魔法少女たちが、最初はクリア報酬を目当てに遊び半分実益半分でプレイしていたのだけれど、ゲームでの死が現実の死に繋がることを知らされ、一転して殺伐とした雰囲気に変わり、次第に疑心暗鬼に嵌り込んでいく姿が愉快ったらありゃしない。

 自分が生き残るにもゲームをクリアするにも人数は少しでも多い方がいいのに、事故や不慮の死で次々とプレイヤーが脱落していき、パーティ勢力間で犯人探しや謎解きが交錯するところも興味深い。
 ゲームもエリアを進んでいくごとに難易度を増していき、製作者の悪意が感じられさえするから、ゲームに参加するだけでも油断がならない。ってか、首謀者は明らかに"音楽家"の影響を受けてるでしょ。

 いまのところ読者は主人公とか特に気にせず好きな魔法少女を応援して読んでいればいいんじゃないでしょうか。最初に登場したキャラが主人公なんじゃない、最後まで生き残ってた奴が主人公なんだ!
 俺は淫獣を応援するぜー今回もどうせ黒幕なんだろとか疑っててマジすんませんしたあああああ。
 正義の魔法少女・スノーホワイトは果たしてこの計画を止めることができるのか。後編が楽しみ!

2012年10月10日

剣澄む/ますくど

4800202728剣澄むーTSURUGISMー (このライトノベルがすごい! 文庫)
ますくど ricci
宝島社 2012-10-09

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西暦2020年、日本には特別に帯刀を許された「御三家」と呼ばれる組織があった。あるとき、「刀狩り」と呼ばれる謎の剣士が現れ、御三家の剣士の刀を次々と奪っていくという事件が発生する。父が倒れたと知らされた上泉綱義が、実家に戻り、出会ったのは自らを妖刀村正と名乗る少女だった

 この世の神をも斬る決意

 現代日本で妖刀を携えた剣士たちが、己の強さを証明するために剣閃を交差する剣劇アクション。

 弟様可愛すぎワロタ。なんで実の弟と主人公、こんなイチャイチャしてるんですかー!www
 現代の日本で帯刀を許され、剣術を伝える『御三家』の一つ上泉家の嫡男・綱義が、幼女の姿をした妖刀・村正と共に『御三家』最強を決める御前試合に挑み、強敵相手に繰り広げる激戦に次ぐ激戦に魂が震えました。
 剣に生き、武勲を誇りとし、殺し、殺される覚悟を胸に秘め戦う剣士たちの気迫に圧倒されます。

 剣術バカだけれど一本気のある綱義が好印象でした。伝説の妖刀・村正を与えられ、見た目は麗しい幼女で、若い美男子しか使うことを許さないという特殊な嗜好を持つ彼女の扱いに戸惑う姿が微笑ましかったです。
 綱義を兄として敬愛してやまない弟・信景と、綱義を気に入ってしまった村正とで、綱義を取り合う光景も楽しかった。けど綱義も出来のいい弟を溺愛していて、兄弟二人してブラコンなのかよ、なんやこれぇ……。

 上泉家代表として御前試合に参加することになった綱義ですが、御三家の他の二家の代表者も、綱義と同年代でありながら、まさしく剣鬼としか言いようがない刀剣狂いで、その異様に背筋が寒くなりました。
 他家も秘蔵の妖刀魔剣を出してくるのは明白なのに、試合前日にして村正と不和を起こしてしまい、普通の刀一本で真剣勝負に挑まざるをえない状況をして平然としてる綱義も、よくよく考えるとマトモではなかったな。

 相手を殺したり、自分が死んだりするかもしれないのに、どこか殺し合いを楽しんでいるフシのある登場人物たちに、お前ら全員どっかおかしいよ!とツッコミたくなるのですが、剣士にとっては自分と並び立つ強敵と本気で戦うことは何よりも幸せなんだろうなと、愛すべき剣術バカたちを思った。
 勝負が終われば、それまでのわだかまりを捨て、お互いに切磋琢磨しあう友人になる。嗚呼、剣士って、素晴らしい……かなぁ?(; ・`д・´)

2012年10月09日

オレを二つ名で呼ばないで!/逢上央士

4800202744オレを二つ名(そのな)で呼ばないで! (このライトノベルがすごい! 文庫)
逢上 央士 COMTA
宝島社 2012-10-09

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全国から特殊な才能を持った子供達が選抜して集められた私立神賀茂学園、晴れて入学を果たした御手洗新(みたらいあらた)は、ひょんなことから屈辱的な二つ名がついてしまう。もうひとつの二つ名を求めて、GW中に行われる二つ名戦大会での優勝を目指すアラタ少年の戦いが始まった。

 目指せ!汚名返上!

 不名誉な二つ名を付けられてしまった少年が、もう一つの二つ名を求めて戦う学園異能バトルもの

 主人公が中二病なのに、それが普通と周囲に受け入れられてしまう世界観で、格好良すぎて辛い。
 生徒に二つ名と異能を与える学園で、誤って屈辱的な二つ名を貰ってしまった主人公・新が、優勝者には望む願いが叶えられるバトル大会に挑む過程で、生まれていく級友との友情の絆に胸が熱くなった。
 異能とはつまりその人の個性や才能なのかもしれない。登場人物たちの溢れる可能性の輝きを見ました。

 登録した二つ名に相応しい異能を与える『二つ名システム』のある学園に夢と期待を抱いて入学したものの、自分で考えたカッコイイ二つ名をつける前に、幼馴染によって勝手に不名誉な二つ名を登録されてしまった新の絶望感たるや、想像するに哀れでプークスクs…ゴホンゴホン…実に可哀想ですね。中二病乙w
 おまけに周囲のクラスメイトに定着して毎日その二つ名で呼ばれるんだから、そりゃいじけもするわ。

 優勝者へ報酬が与えられる校内バトル大会に勝ち進んで新しい二つ名を得ようとするも、今の二つ名からもたらされる異能もそれに応じて扱いにくい能力で、マトモな異能者相手に連敗してしまうのですが、ヒントを得て能力の新しい使い道を見出してからのバトルは、戦い方にも工夫があって面白かった。
 どんな能力であっても優劣はなく、活かすも殺すもすべては自分次第ということなんでしょうね。

 対戦相手の女の子たちをクサイ台詞で次々とオトしていく新だけれど、こいつ無自覚に本気で言ってるから爽やかでカッコイイ奴に見えてしまって困る。まあヘタレじゃなくて熱血系主人公なのもよかった。
 ちなみに、どうやって生徒に異能を付与してるんだとか、どうやって戦闘ダメージを無効化してるのかとか、そういう技術的な細かいことを気にするような野暮な奴は、まさかいないよな?( ・`д・´)

2012年10月08日

薄氷あられ、今日からアニメ部はじめました。/島津緒繰

4800202787薄氷あられ、今日からアニメ部はじめました。 (このライトノベルがすごい! 文庫)
島津 緒繰 KD
宝島社 2012-10-11

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授業中、ノートにエッチなイラストを書いていたところを隣の席に座る女子生徒にみられてしまった。僕の高校生活は4月のうちに終わった。そう思った。しかし、−−「いいお尻だね」僕の描いた裸の美少女イラストにそうコメントした彼女は、僕を放課後の屋上に呼び出し「アニメを作れ! 」と脅迫してきた。

 アニメを作るよね!

 美少女たちとアニメ制作に勤しむアニメ部の活動を描いた学園ラブコメディ。

 開始10ページで俺のトラウマを抉っていったでぇ……。汚い、さすがアニメーター汚い!
 美少女イラストを書くのが唯一の取り柄の主人公・隆史が、アニメーターを目指す美少女・あられと出会い、部員を集めアニメ部を創部し、力を合わせ一本のアニメを創りあげていく光景が青春でした。
 ときにぶつかり合い、すれ違いながも仲間と共に汗と涙と情熱を傾け、創作に挑む姿に燃えました。

 小心者でネクラな主人公の隆史のキャラがイマイチ、パッとしないのだけれど、そんな彼をアシとしていいようにこき使うヒロイン・あられのエキセントリックな個性が、モヤモヤを吹っ飛ばしていた。
 アニメ部創設のための新入部員集めでも、入ってくるのは性格にどこか難を抱えた残念系美少女ばかりで、彼女らの奇行のフォローに振り回され、胃を痛める隆史の姿に次第に可笑しさを感じてくる。

 完璧超人でアニメ嫌いな生徒会長・翠香との絵力勝負に勝ちを収めたものの、あまりスマートとは言えない勝ち方をしてしまったせいで恨まれてしまう隆史ですが、完全な逆恨みだよ。観客のニーズに応えた絵を書いた隆史と、自分の画力しか見えてない翠香では、どちらが創作者として優れているか一目瞭然でしょう。アニメーターとは、絵師とは、誰のために、何のために作品を作っているというのか!

 アニメコンテストへの締め切りに追われデスマーチに陥ったアニメ部のピンチを切り抜けるため、ヘタレな隆史が魅せた男気にはちょっと見直した。いつもこれくらい押しの強さがあればよかったのに……。
 翠香さんのチートっぷりには、いくらなんでも出来過ぎじゃないかと、( ゚д゚)ポカーンさせられたりもしたけれど、あられの唯一のコンプレックスの元凶だと思うとしっくりきました。なんにせよアニメーターって酷いな!

2012年10月07日

ロゥド・オブ・デュラハン/紫藤ケイ

480020268Xロゥド・オブ・デュラハン (このライトノベルがすごい! 文庫)
紫藤 ケイ 雨沼
宝島社 2012-10-09

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領姫の不可解な死の真相を追う傭兵アルフォンスは、死体を操る死術師と対峙し窮地に陥ったところを、白銀の髪の女に救われる。彼女の者の名はリィゼロット。永き時を生き、死の運命を弄ぶ者たちを狩る、精霊デュラハンの一人。

 その精霊は、悲しみを希望に変える

 人間の死と生命を弄ぶ死術師たちを狩る、死を告る精霊デュラハンの断罪の物語。

 最近ではとても珍しい、玄人好みの重厚感ある中世世界を舞台にした本格ファンタジーでした。
 友人だった領姫姉妹の不条理な死に義憤を抱いた傭兵アルフォンスが、謎を追っていくうちに、人の命を生贄とする死術師と、それを狩る精霊デュラハンの少女リィゼの戦いに巻き込まれていき、死者たちの悲嘆をぬぐい去り、罪と怨嗟の輪環を断ち切っていく光景に胸がはり裂けそうな切なさを味わいました。

 傭兵として幾度と無く死線をくぐり抜けながらも、真っ直ぐな性根を持ったアルフォンスですが、力及ばず大切に思う人々を救うことができずに、彼の手から次々とこぼれ落ちていく不条理がやるせない。
 私欲に狂った死術師を狩る精霊デュラハン・リィゼと出会い、彼女と共に行く先々で現れる死術師の生み出す犠牲を止めるため、無力なれど自分ができることして悲劇に抗っていく芯の強さに驚かされる。

 リィゼ自身もまた死術師だったかつての己の罪過を抱え、精霊となって永遠の罰を受けた今も、自分と同じ過ちを繰り返さないために心を鎧に隠して、非業の剣を振るって戦い続ける姿が悲しくも愛おしい。
 リィゼにとっては標的である死術師が、過去の自分であり、その犠牲者は自分が殺めてしまった人々に見えてるんでしょうね、それと向き合わなくてはいけないというのは、なんて過酷な罰なんだろう。

 そんなリィゼの味方となって彼女を弁護し、許しと救いを与えるアルフォンスが素晴らしかった。
 デュラハンとしてリィゼに与えられたのは罰ではなく、新しくやり直すチャンスだったんだと思います。
 作者さんはTRPGのリプレイ書きらしいですが、今月の『ロゥド・オブ・デュラハン』以降、別のファンタジー作品を三ヵ月連続刊行予定とか、凄い執筆量ですね。ファンタジー好きは要チェックかも。

2012年10月06日

ファウストなう/飛山裕一

4800202701ファウストなう (このライトノベルがすごい! 文庫)
飛山 裕一 HRD
宝島社 2012-10-09

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これは、デブが金網に挟まる物語だ。高校入学以来、すっかり無気力になった不破人の前に現れた美少女・かがり。自らを悪魔と称する彼女は、人生に満足してもらうため、不破人の望みを叶えようという。焚き火、力士、悪魔の革新、合コン、女体化、そして親友の命の危機。これはデブが金網に挟まる物語

 横綱よ、集え!

 悪魔の少女とそのご主人様になった主人公がおくる人間と悪魔が化かし合う学園ラブコメディ。

 ヒロインの力士によって人生が華やかになり、デブが金網に挟まる物語でした。間違いは言ってない。
 やる気のない主人公・不破人が呼び出してしまった美少女悪魔・かがりに、波瀾万丈の人生を願ったあまり、代わり映えしなかった日常が忙しくも充実した学園生活へと変貌していく光景が愉快でした。
 今回も宝島社編集部さんから献本を頂きました。いつもいつも大変感謝しております。

 高校入学以来、理由もなく無気力になってしまった元熱血サッカー少年の不破人と、どこか人を喰った狡猾なキャラクターの悪魔かがりとのヒネクレ者同士の丁々発止の掛け合いが可笑しかった。
 不破人を主として絶対服従の主従関係にあるものの、彼の願いである『波瀾万丈の人生』を実現させために、甘やかしてくれなくて、予想外の行動に出ることもあり、一筋縄ではいかないところが面白い。

 無気力な不破人に恋をさせるため、クラス全体の女子の魅力を上げて学校生活の雰囲気を明るく変えていく手腕は見事だった。さらに目的を与えて友達作りをさせるんだけれども、初めは勇気が必要だったやり取りも繰り返すごとに不破人自身も段々と楽しくなっていくところが微笑ましかったです。
 ギャル系な子って好みじゃないんですけれど、京子さんの人間性の深さにちょっと惚れそうになりました。

 前よりも距離の近くなった周囲の女の子たちに決して惚れまいと身構えてしまう不破人ですが、そんな頑なにならずに、もっと素直に楽しんだらいいんじゃないかな。徐々に昔のやる気と熱血度を取り戻して、友人たちと騒いでいれば、悪魔に頼らずともおのずと人生は楽しくなりますよ。まあ、それをただ見ているかがりさんではないので、今後どのように大荒れの嵐を巻き起こしていってくれるのかに期待です。

2012年09月08日

僕と姉妹と幽霊の再会/喜多南

4800201780僕と姉妹と幽霊(カノジョ)の再会(コンタクト) (このライトノベルがすごい! 文庫)
喜多 南 みよしの
宝島社 2012-09-10

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無意識に幽霊を引き寄せる桃果の能力のせいで、再び生霊として目覚めた紫音。紫音は桃果を「よりしろ」にしてしまったため、二人は四六時中行動を共にすることになり、紫音・桃果・クロの間に微妙な空気の三角関係が構築される。そんな最中、オカルト研究部に訪問者が現れる。

 君と一緒に過ごす幸せ

 未練を残してさ迷う幽霊たちと霊能力を持つ姉妹と少年のせつない系学園ラブコメ。

 恋のライバル同士の女の子がお互いを認め合って一致団結する姿とか最高に格好良いな!
 オカルト研究部にやってきた少女・浅葱の依頼で、彼女にとり憑いた死んだ兄・蘇芳を成仏させるため、成仏を拒否する蘇芳の本当の心残りを探っていくうちに見えてくる兄妹の愛が涙を誘いました。
 再び生霊として再会した紫音と、クロと桃果を交えた三角関係の恋愛模様が見物でした。

 桃果を新たな依代として復活(?)した紫音がワガママで憎たらしくも愛らしく、桃果がクロにほのかな恋心を抱いているのを知って遠慮なく恋のライバル宣言かましてくる姿が堂々として小気味いい!
 紫音の正妻オーラに負けそうになる桃果ですが、紫音は紫音で、自分が眠っている間にクロと仲良くなって、先輩後輩の関係になった桃果のことを対等なライバルとして扱ってるのが見て取れていい。

 幽霊と依り代として一緒にいるうちにすっかり打ち解けて、二人してクロにアプローチをかける紫音と桃果の仲良しぶりがほのぼのとする一面、いつも以上に放置気味でストレスフルな緋色姉さんが可愛い。
 蘇芳が本当の願いをクロたちに話さずにいたのは、彼らと敵対したほうが確実だと考えたんだろうな。それが自分を犠牲にする選択だったのが悲しくて、しかし、そうまでして妹にかける兄の愛に感動した。

 紫音と桃果の息ぴったりなコンビネーションがGJでした。この二人の相性もいいなぁ。
 しかし、弟がちょっと気にかけてあげれば、すぐにデレるんだから、ちょろい! ちょろいよ緋色さん!
 姉妹の中で一番強い能力を持っていても、一番弱いのは緋色だろうな。自分を追い詰めすぎなんよ。
 修羅場スキーとしてはついにクロが桃果の恋心を知った次回以降からが本番かなぁ。期待してます。

2012年09月07日

オカルトリック 02/大間九郎

4800200822オカルトリック 02 (このライトノベルがすごい! 文庫)
大間 九郎 葛西 心
宝島社 2012-09-10

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元狐憑きの探偵助手・玉藻と、超絶美女の引きこもり探偵・ねえさん、向上心溢れるメンヘラ・イソラちゃん(キーワードは女子力! )。ギリギリのバランスを保っていた三角関係は、意識不明だったイソラの姉・舞花の目覚めと共に、次のステージに移行する

 愛なくして幸福なし

 引きこもり美女探偵と美少年助手のハッピーでファッキンなオカルト事件簿。

 まさかの純愛小説だったよ。狂気に彩られているのに、どうしようもなくラブストーリーでしたよこれは。
 入院中の病室から失踪してしまったイソラの姉・舞花の足取りを追って、人里離れた山荘へとやってきたオカルト探偵の助手・玉藻が、手がかりを元に事件の驚愕の真実を暴いていく様が衝撃的でした。
 自分とねえさんの本当の関係を知ってしまった玉藻が、それでも捧げた愛の形に感動しました。

 可愛いのに寒気が止まらない最凶のメンヘラ、イソラたんが、ぶっ飛んでおかしくなってますね。
 玉藻の前でブリッコしてる時は女子力アピール全開で愛らしいのに、彼の見てないところではゾッとさせるような凶暴な本性を顕にしていて、最近の女子高生こええよ。玉藻ー逃げてー超逃げてー。
 策略を駆使してねえさんから玉藻を引き剥がした駆け引きとか、サーセン正直甘く見てました……。

 山荘に辿り着いてからの不思議空間文章は、ちょっと難解で読みづらく感じましたが、実は意味があったりして、玉藻の深層心理を読み解くミステリーとして読み直すと、いろいろキャラが見えてきます。
 おかしな宿泊客の未来予知に導かれるまま、嵐の山荘を抜け出した玉藻を待っていたのは見えぬ敵の巧妙な罠で、イソラ共々、そうとは気が付かないまま窮地に落ちいっていく姿に肝を冷やしました。

 今回はやけにイソラたん愛されてるなぁと思ったら、やっぱりねえさんに美味しいところだけ持っていかれて、イソラたん派の俺涙目。たまにでいいのでイソラたんのこともちょっとは思い出してあげてよぅ!
 三角関係の結末は、報われない幕切れに終わったけれど、落とし所としてはまあマシな方か。
 ハードラックとダンスっちまう物語でしたが、ラブ&ハッピーを追い求める貪欲さに惹かれる物語でした。

2012年09月06日

アニソンの神様/大泉貴

4800201209アニソンの神様 (このライトノベルがすごい! 文庫)
大泉 貴 のん
宝島社 2012-09-10

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アニソン好きが高じて、ドイツから日本へとやってきた少女、エヴァ。彼女の夢は、アニソンの聖地・日本でアニソンバンドを組むこと。今、その夢が動きだす――。音楽と青春。「CHA-LA HEAD-CHA-LA」から「太陽曰く燃えよカオス」まで、アニソンの名曲を賛美する、すべてのアニソン好きに贈る、友情物語!

 君の心にアニソンは流れているか!

 アニソン好きな留学生と音楽に悩むギター少年がおくる歌とバンドと狂騒の青春エンターテイメント

 読めばアニソンが聞きたくなる! 歌いたくなる! 踊りたくなる! アニソンが好きだと叫びたい!!
 アニソンに憧れて日本へ留学にやってきたヒロイン・エヴァが、音楽仲間を集めてアニソンバンドを結成し練習を重ね、学園祭でのライブで観客たちを熱狂の渦に巻き込む光景に胸がいっぱいになりました!
 アニソンが大好き!という気持ちで突き進むヒロインの強い熱意が眩しくて、素晴らしかった。

 日本人以上にアニソンに詳しいドイツの女の子・エヴァの自由奔放な魅力が弾けてますね。
 幼い頃から日本のアニソンを聞いて歌って育ったせいか、アニソンの持つパワフルで、大胆で刺激的、ジャンルという枠にとらわれない特徴がそのままキャラになったかのような、まさにアニソンの申し子!
 夢見ていた日本での学校生活を精一杯楽しんでるのが伝わってきて、こちらまで嬉しくなります。

 アニソンバンドをやりたいと言っても、最初は誰も相手にしてなかった周囲ですが、諦めないエヴァのチャレンジ精神に押されて一人、また一人と集まってきて、バンドが組み上がっていくところが素敵。
 彼女と出会うまではアニソンを批判していた弦人も、原作のアニメは知らずとも、次第にアニソンの持つ音楽性に惹かれていき、殻に篭っていたいた自分の世界が広がっていく姿はまさに青春ですね。

 アニソンを通じて繋がったバンドメンたちの努力が結集したライブ描写は圧巻の一言だった。
 日本のTVは毎日アニソンを流し、街を歩けばお店のBGMや駅のチャイム、携帯電話の呼出音、どんなところにもアニソンが溢れている。私もアニソンの神様の息づかいを感じれるようになりました。
 バンド集めや練習で必死なとこもいいけれど、登場人物たちの人間ドラマもマイ見所でした。

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