2007年12月24日

ライトノベル2.0(中)

3.シェアードワールドは、次世代の「インテル・インサイド」
レーベルには、必ずそれを支える代表的な作品がある。
富士見ファンタジア文庫の「フルメタルパニック」、角川スニーカー文庫の「涼宮ハルヒ」、電撃文庫の「灼眼のシャナ」、MF文庫Jの「ゼロの使い魔」などだ。
それらはなによりレーベル自体が備える特色でもある。

2006〜07年までに、GA文庫HJ文庫講談社BOXゼータ文庫B's-LOG文庫ガガガ文庫ルルル文庫と、いくつかのレーベルが立て続けに創刊したが、いち早くレーベル乱立の混戦状態から抜け出して独走しているのがGA文庫である。

ここまで抜きん出た理由は、人気作家の起用だろうか?
いや、けれどHJ文庫は、榊一郎、五代ゆう、葛西伸哉、水城正太郎ら、錚々たるメンバーで創刊したはずだ。
講談社BOXについては、西尾維新の「刀語」「化物語」、奈須きのこの「DDD」、それとあとは竜騎士04の「ひぐらしがなく頃に」しか注目されず、他はさっぱり売れていない。
ゼータ文庫にいたっては、賀東招二と神代創というベテラン作家がついたにも拘らず、すでにドロップアウトしている。

GA文庫が実際に行ったことはただひとつ。
いずれも創刊したばかりで、レーベルの独自色というものが曖昧だった時期に、この文庫だけは「神曲奏界ポリフォニカ」というタイトルでもって読者に自らの方向性を明示したのである。
以来、「神曲奏界ポリフォニカ」は、旗手の榊一郎を始め、大迫純一、高殿円、築地俊彦らによるシェアードワールドとして確立し、19ヶ月連続刊行という驚異の記録を打ち立てた。

これは1990年代に、富士見ファンタジア文庫が「ソードワールド」というシェアワールドを展開することで、ファンタジーファンの読者の支持を勝ち得た流れと酷似している。

この結果は、現在、激しい競争が繰り広げられているライトノベル市場において、レーベルの核となる作品を所有することが、競争力を維持する上でいかに重要かを示している。

とくにシェアードワールドが出版社に貢献度は大きい。
別々の作家の作品を、それぞれ繋がりの無い作品として出版するよりも読者の購買意欲をそそるのである。
簡単に言えば、ポリ赤を読んだ読者は、かなりの頻度でポリ黒やポリ白にも手を伸ばすということである。

レーベル競争の激化に対し、いまやレーベルの垣根を越えて執筆活動を続ける作家たちによって、レーベルのコモディティ化が進みつつある現状で、富士見ファンタジア文庫と角川スニーカー文庫は、沖方丁による「シュピーゲルプロジェクト」による連携アイデンティティの可能性を模索しているが、やはり一人の作家による完全な完結を前提にしたものではなく、例えひとつのシリーズが完結したとしても、その作品の財産価値を次の作品に継承していくことが重要である。

何人もの作家が次々と手を加えていくことで、シェアードワールドの世界観は複雑化し、物語の背景を深めていく。
シェアードワールドを矛盾なくコントロールすることは難しいが、その自由度と可能性は無限大である。
シェアードワールドはライトノベルのオープンソースとなる。といっていいだろう。

蛇足だが、「ポリフォニカ」の語源は、音楽用語で多重音声を意味する「ポリフォニー(多声性)」からきているという。
複数の作家が参加するシェアードワールドにとって、実に相応しい名前である。

4.ライトノベル・リリースサイクルの終焉
「1.プラットフォームとしてのライトノベル」でも述べた通り、現代のライトノベルの決定的な特徴のひとつは、それが小説ではなく、コンテンツとして提供される点にある。
この事実は、メディア企業のビジネスモデルに数々の根本的な変化をもたらす。

「涼宮ハルヒ」を例にとると、音楽会社のランティスは、その高いキャラクター性に着目し、販売したキャラクターソングは、初動売上枚数は最高2万枚(Vol.1 涼宮ハルヒ)、最低でも1.3万枚(Vol.8 古泉一樹)と従来のキャラクターソングシングルを大きく上回る売り上げを記録しており、オリコン10位以内にランクインすることもしばしばあった。

そこからさらに2007年3月18日、大宮ソニックシティにてライブイベント「涼宮ハルヒの激奏」が行われた。
たかが小説ひとつから、コンサートまで開かれるなどというのは、まったくの異例ではあるが、一旦ルートが開拓されてしまった以上、これだけで終わるとは到底思えない。

これを見ていたメディア企業は、我々には予想もつかない新たなビジネスモデルを模索していることだろう。
こうしてライトノベルは、レーベルを紙媒体に出版するだけの印刷会社から総合メディア企業へと引き上げていくのである。

5.軽量なストーリーモデル
「ツンデレ」が流行語になると、作家たちはわれ先にストーリー構成や物語の雰囲気に合う合わないを度外視して、ツンデレヒロインを己の複雑な世界観に組み込み始めた。

そうしてとにかく「ツンデレ」にとっかえひっかえジャンルを着せ替えさせた結果、おそらく最も成功を収めたのは、竹宮ゆゆこの「とらドラ!」の逢坂大河である。
これを得て、単純な「学園ラブコメ」こそ、「ツンデレ」というヒロイン像を活かすのに一番相応しい、というファイナルアンサーを導き出してしまってもよいだろう。
最近ではMF文庫J、夏緑の「ぷいぷい!」の座堂シエラ、「渚フォルテッシモ」の麻生渚が、「最もツンデレらしいツンデレ」として「ツンデレ」のスタンダードとなりつつある。

そして時代のニーズは、「ツンデレ」から「ヤンデレ」へと変わってきている。この純愛系でありながら精神を病んだヒロインというのは、ヒロイン属性の組み合わせによる革新である。
この特異なヒロインを活かすことできるジャンルは、入間人間の「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」、翅田大介の「カッティング」といった猟奇的な「サスペンス」しかありえない。

それ以外のジャンルの作品に登場させたとしても、キャラクターの異常性がストーリーを食ってしまう。
流行だからといって、作家は意識しすぎる必要はない。
ファンタジーでアクションなラブコメディのロードストーリーなどと、作家がアレコレとジャンルをツギハギにして複雑怪奇極まる世界観にしてしまうと読者も理解困難である。
メインに際立たせたい部分だけ特化すればいい。

シンプル・イズ・ベスト。結局のところ、読者が求めるのは王道ストーリーであり、定番のパターンであり、お約束の安心感なのである。
posted by 愛咲優詩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(3) | ラノベ評論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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