![]() | “文学少女”と慟哭の巡礼者 野村 美月 竹岡 美穂 エンターブレイン 2007-08-30 by G-Tools |
【遠子の受験・卒業を目前に、ななせと初詣に行ったりして、和やかなお正月を迎える心葉。だが、ななせがケガをし、入院先に見舞いに行った彼は、ひとりの少女と再会する】
「ぼくは、真実と向き合える人間になりたい」
真実を求めし者に幸いを
"文学少女"が紡ぎ出す、青春モラトリアム・ミステリー。
新年早々、入院した琴吹ななせのお見舞いに行った先で、心葉は自身のトラウマの原因となった少女・美羽と再会する。
昔のように微笑む美羽とよりを戻していく心葉ですが、彼女に疑惑を抱く琴吹ななせとの間には溝が生まれていきます。
あー、なるほど。美羽と心葉は典型的な共依存でしたか。
せっかく、心葉とラブラブになりつつあったのに、昔の女の登場であっさり捨てられてしまった、琴吹さんが憐れです。
それでも彼のために一途に尽くす彼女の姿が健気すぎる。
一方、盲目的に美羽を信じる心葉の葛藤が、これは辛い。
美羽の吐き出す言葉の毒が、琴吹ななせの想い、芥川くんとの友情までも穢していき、さらに心葉の心の傷を抉っていく。
予想以上にドロドロとした三角関係が、暗くて冷たい人間の心の闇の中へと読者を曳きこんでいく。これは重い・・・。
これまで話を通して鬱展開に慣れておかないと相当キツイ。
でも、後半になって、美羽の不遇な家庭の事情が明かされてくると、さすがに彼女の境遇に少し同情しちゃいますね。
ひとりで有頂天になって、美羽の苦しみに気づいてやれなかった心葉もいけなかったのかもしれない。
他の感想サイトでは、美羽については否定的意見が大多数ですが、私は彼女ばかりを責められないし憎めませんね。
そうして幾重にも絡み合ってしまった人間関係を紐解き、
彼らに希望の光を灯す"文学少女の語り"がやはり素敵です。
このシリーズのモチーフになっている古典作品は、悲劇だったり、幸せになる人物がいる一方で報われない人々がいる。
けれども遠子先輩は、そうした救いのない話にも新しい解釈で「救い」をもってくる。ただ過去の名作を引用してくるだけではなく、その「救い」が肝心なのだと思います。
誰もが不幸を感じていて、幸せを求めているからこそ、"文学少女の語り"を登場人物も読者も信じたいんじゃないかなぁ。
さて、一応はシリーズとしての大きな山場をクリアしたというところですが、最後の謎に満ちた強烈な引きはなんでしょう。
野村さん、太字自重してくれー。
追伸:
ちなみに、今回のモチーフとなった『銀河鉄道の夜』をはじめ宮沢賢治の作品はすべてこちらで読めます。
その他の文学作品を読みたい方もオススメ。