幼少時のほろ苦い記憶から他人に興味が持てずにいた土屋だが、ただ一人だけ心を動かされる人がいる。それは行きつけの書店で働く『三つ葉ちゃん』。本名も知らない彼女に何も出来ない状況を鈴音に相談すると、ハイスペックな彼氏持ちの恋愛強者な彼女から告白の練習を勧められる。しかし練習するも中々自信が付かない土屋。そこで鈴音は『恋人になった後』のイメージを持たせて奮起させようと、より親密な特訓を提案する
友情も恋愛も越えた男女の愛
地味で冴えない男子高校生の土屋巧と、明るくてコミュ力があって学園のアイドルな女子高生・鈴音真理のちょっと変わった友情と恋愛の狭間の物語です。
接点のなさそうな二人だが、お互いに大の親友だと思っている二人の交流が微笑ましかった。
最近、ラノベ界隈では、ギャル系美少女ヒロインの波が来ています。
消極的、内向的なコミュ障のオタク男子にとっては、相手から積極的に話しかけてくれる女子というのが魅力的に見えるのでしょう。
自分としては陽キャのノリで話しかけられるのは、相手してて疲れそうだなと思うのですが、この作品のヒロイン・鈴音は会話のテンポが良く、どこまでも自然体です。
他人と距離を置くタイプの土屋だが、天性の魅力で全校男子に惚れられて男友達ができない鈴音にとっては特別な存在で、土屋にとっても面倒な性分の自分と真正面から向き合ってくれる大切な存在。
ことさら男女の性差を持ち出すでもなく、どちらかが一方に甘えすがったり、一方的に振り回すような上下関係がない。そんな関係がなんとも心地良い。
鈴音には両思いの年上の恋人がいて、土屋にも片思いの女の子がいて、恋愛感情とは別腹の友情でお互いの恋を応援している。信頼し合っているからこそ、何でも隠し事が言えて、何でも受け入れて通じ合っている関係が心温まります。
そして自分たちの友情がどこまで維持できるのか、お互いを試す行為が次第にエスカレートしていって、やがて一線を踏み越えていくところに、ただの友情では計れない深い愛情を感じます。
けれど、不思議と彼らの行為には性的な卑猥さ、いらやしさは感じず、満足感と肯定感に溢れていて胸がいっぱいになります。
友達としての心の交流が身体の交流に変わっただけで、彼らの中では友達へのスキンシップと性行為がシームレスに繋がっている。本能からでも理性からでもない情動から生まれていて、彼らにとってはあるべき姿、自然な行為なのだと納得してしまう。
色々な好きがあって良いと思うよ。
というのが、この本の帯にも書かれているテーマですが、まさに今の自分の思いが集約されていると思います。
確かに、この二人の距離感で友達というのはおかしい、という感情はありますが、人間関係には友情とも、恋愛とも異なる愛情がある。男と女だからと無理して友情と恋愛の2択の枠にハメなくても、こういう男女の関係だってアリなんじゃないかと示してくれています。
正直、前作は性欲が先に来ていたけれど、今作は青春物語として洗練されてて、お世辞でなく感動しました。
シミルボンにも掲載しております。トモハメ 〔2〕(友情音痴でぼっちな僕が、クラスで一番人気な彼女に懐かれたワケ)