空間が意思と魔力を持ち、様々な魔物が息づく世界・パライナの北端に、誰も訪れない《最果て図書館》はあった。記憶のない館長ウォレスは、鏡越しに《はじまりの町》の少女ルチアと出会い「勇者様の魔王討伐を手伝いたい」という彼女に知恵を貸すことに。
それは物語の勇者のように
勇者と魔王の決戦を影で支えた少年と少女の《誰にも語り継がれないお伽噺》
タイトルでピンときた方もいると思いますが、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』ですね。
いつの頃からか《最果ての図書館》の館長をしている少年・ウォレスが、ある日、倉庫で見つけた姿見が、何故か遠くの街に住む少女ルチアの元と繋がって、離れた場所で紡がれる交流が優しい。
世界観はファンタージエンではありませんが、その影響を思わせるオマージュになっています。
落ち着いて大人びた少年ウォレスと、お転婆で活発な魔女見習いのルチアの掛け合いが愛らしく、ルチアの悩み事をウォレスが知恵を出して解決するという相棒と呼べるような関係性がいいですね。
図書館の外に出ることができないウォレスと、魔物が活発したせいで街から出れないルチア、お互いに遠くの土地への憧れを持っている者同士が交流する文通のような楽しさや喜びが伝わってきます。
魔王の存在によって世界に危機が迫っている。魔王を倒すために勇者が旅立つ。英雄譚とは無縁の脇役のつもりだったウォレスもルチアですが、勇者を影で支えていくようになっていく構成が巧みでした。
勇者と魔王の立場がひっくり返るというのは、まさに『はてしない物語』で描かれていたストーリーですね。ウォレスの過去が明かされ、物語の重要な役割を担うところは思わず会心の笑みが浮かびました。
飛竜に乗って駆けつける場面とか、まさしくフッフールで夜空を飛ぶ映画の名シーンじゃないですか。
お守りとか、魔法の剣とか、隠れ蓑とか、登場するアイテムの数々も「そういえばこういうの、あったあった」と、懐かしさがこみ上げてきます。ライトノベルとしては、現代風ではないかもしれません。派手さはありませんが、綿菓子のようにふわっと甘い作者のファンタジーへの愛が感じられる作品でした。
ファンタージエン 秘密の図書館