ダフロン

2019年02月12日

つるぎのかなた/渋谷瑞也


かつて“最強”と呼ばれながら、その座を降りた少年・水上悠。もう二度と剣は握らないと決めた彼はしかし、再び剣の道に舞い戻る。悠を変えたのは、初めて肩を並べる仲間たち、彼に惹かれる美しき剣姫、そして高校剣道界最強の男・快晴。二人が剣を交えた先で至るのは、約束の向こう、つるぎのかなた。


 蒼天の剣が嵐雲を斬る

 つるぎのかなたを目指し、剣道にすべてを捧げる高校生たちの青春剣道物語。

 この話の本当の主人公は最強に憧れを抱いて成長した剣道少年の快晴くんだと思う。悠がラスボス。
 かつて最強と称されながら剣の道を捨てた主人公・水上悠が、高校の剣道部に勧誘され、様々な仲間と出会い、試合を繰り広げるうちに眠っていた闘志に火がつき、再び剣の頂きを目指す勇姿に痺れました。
 ちなみに私も元剣道少年でしたが、作中の描写は誇張無しでありえます。リアリティに忠実です。

 正直、悠とかいう鬱屈ヤローはどうでもいんだ。快晴くん、悠の前に立ちはだかる強面なライバルキャラかと思っていたら、実は悠に憧れるガチファンで、ものすごい純情な青年で愛着がわいてしまった。
 その妹の吹雪ちゃんも可愛いのに剣道一筋で、それ以外は不器用な何もできない残念美少女だけれど、何かというと斬るか殺すかで考えるマジ物騒な思考回路が見ていて楽しいんです。この兄妹しゅき!

 なにより試合の立ち回りの剣劇描写が傑出してるんですよね。足運び、竹刀の打ち方、受け方、選手が一瞬で判断し、相手を追い詰めていく攻防を卓越した疾走感、重厚感で見事に描ききっています。
 心は相手への敬意と高揚感に溢れていながらも、鬼の形相と野獣の咆哮で剣を振るう姿に圧倒されます。相手が憎いからではなく、お互いに高め合うために剣を交える。これぞまさしく剣道の理念。

 しかし剣道用語や習慣を普通に使いすぎて、経験者でもないと理解が難しいところがあります。団体戦を描く上で登場させる必要があるにしても、脇役が多すぎてキャラ書き分け切れてないのが惜しい。
 それでいて一人称の視点が一貫していないので読んでいると忙しなく感じてしまいます。猛々しい勢いが文章全体から伝わってきますが、もう少し読みやすく整理できていればなぁと。次回の団体戦に期待。
posted by 愛咲優詩 at 00:00| 電撃文庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする