ダフロン

2018年07月29日

空飛ぶ卵の右舷砲/喜多川信


『大崩壊』から数十年。小型ヘリ<静かなる女王号>を操り、樹竜狩りを生業とするヤブサメ。彼は師であり相棒でもあるモズとともに仕事をこなしながら、日本各地を飛び回っていた。そんな中、二人は東京第一空団副長セキレイに、その腕を買われて旧都市・新宿での大規模探索作戦への同行を依頼される


 呻れ、回転翼! 鳴らせ、砲口! 空飛ぶ卵の竜殺し

 植物のモンスター樹竜に支配された未来の日本で小型ヘリを駆って戦う近未来アクションSF

 大自然によって文明が衰退した世界でもしたたかに生き抜く人間の力強さに圧倒されました。
 若くして凄腕のヘリパイロット・ヤブサメが、美人だけれど破天荒な師モズに振り回されながらも、小型の武装ヘリを操り過酷な依頼に挑み、機転と度胸でピンチをくぐり抜けていく様がスリル満点でした。
 怪奇な樹竜とヘリとの空戦の描写から伝わる作者の情熱と想像力に引き込まれます。

 小型ヘリ<静かなる女王号>の船長モズは、いい年してどこかに大人の節度を置き忘れ、ギャンブルや酒で借金まみれのダメ人間の典型なんだけど、荒廃世界でも楽しく生きる自由人な生き方に憧れる。
 常識人のヤブサメは苦労させられるのだが、そんなダメ師匠でも戦闘では天性のセンスを発揮して、そんな師弟が窮地をくぐり抜けて人知を超えた怪物である樹竜を打ち倒していく勇姿が興奮するんだ。

 海上都市を守る空挺兵団が計画する大規模作戦の協力を依頼され、民間でフリーランスの二人は最初は味方である兵団の堅物パイロットたちに疎まれてしまうんだけれども、小型ヘリで樹竜を駆逐するその常識はずれの戦闘力でもって次第に認められていくのが痛快で、いつの間にか官民の垣根を超えてお互いに連携が通じ合い、助け合う戦う光景が、まさにプロフェッショナルって感じで全員格好いいんだ。

 総じて完成度は高いんだけれど、審査員特別賞にとどまっているのは、やはり中高生向けとしてはハードボイルドを貫きすぎているストロングスタイルが良くいえば拘り、悪くいえば足かせになってる。
 ヒロインとのラブ要素とか、主人公の成長要素とか、あまり必要としないタイプのストーリーだから、少年向けラノベで重視される読者の親近感を得にくいのが残念に思います。それでも十分に面白いのでオススメです。
posted by 愛咲優詩 at 00:00| ガガガ文庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする