建築士・音無薫子の設計ノート 謎(ワケ)あり物件、リノベーションします。 (宝島社文庫) 逢上 央士 宝島社 2015-12-04 by G-Tools |
建築を学ぶ今西中が、風変わりな喫茶店で出会った小柄な女性。彼女こそ今西がこれからインターンとして働く建築事務所の代表、音無薫子だった。天才的な観察眼と奇抜な発想で依頼に応える彼女の元には、ちょっとワケありの依頼人ばかりが訪れて
家に宿るは家族の想い
依頼主の要望聞くが決して要望通りにしない女性建築士が家に秘められた謎を解き明かす建築ミステリー
建築ミステリーとはなんぞやと思いましたが、読んでみると、謎解きのある立派なミステリーでした。
建築学を学ぶ大学生の主人公・今西中が、インターンとして働くことになった建築事務所所長・音無薫子と共に、奇妙な依頼主が持ち込む謎あり物件のリノベーションに挑み、導き出してく建築計画が興味深かった。
謎を紐解いて見えてくる、かつて家に住んでいた人々の想いや願いにホロリと涙するいい話でした。
今西中が働くことになった音無建築事務所は、所長である音無薫子が切り盛りする超小規模ながらも奇妙な依頼ばかりやってきて、依頼主の服装や建物を見ただけで事情を察する音無薫子の観察眼が、まさに名探偵。
要望は聞くけれども自分のプランに任せなさいと、やたら強気な彼女ですが、そこは「餅は餅屋」。素人では気づかないような驚く工夫やプランを提示して、最後にはしっかりと依頼主を満足させるから痛快です。
劇的ビ○ォーなんたらで、カリスマ建築士たちが、何故やたら住みにくいデザインの建築ばかりするかわかった気がします。いえ、薫子さんはそんな建築は考えないんだけれど、ライバル建築事務所は地雷臭がする。
ただ建築士の理想を押し付けるのではなく、家を建てた親や住む人の想いや願いを反映した、思いやり溢れる家造りが感動的でした。夢を思い出して建築士として一皮むけていく今西くんの成長もよかったです。
作中に出てくる家に住みたいかと言われたらノーですね。100人いたら100通りの生き方、暮らし方のスタイルがあるものだから、誰でもにあった家はないのでしょう。私もそういう家に住みたいと思いました。
この作品が、普通のミステリーとは違うのは、犯人探しやトリック・アリバイ崩しとは別の思考力が必要になって、そして絶対的な正解がないところでしょうか。読んでいて推理や考察を巡らせるのが面白かったです。