筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。 (宝島社文庫) 谷 春慶 宝島社 2015-10-06 by G-Tools |
亡くなった祖父の思いを確認すべく、美咲は大学一の有名人、東雲清一郎を尋ねるが、噂に違わぬ変人で――。有名な書道家なのに文字を書かず、端正な顔から放たれるのはシビアな毒舌。挫けそうになる美咲だが、どうにか清一郎を説得。祖父から残された手紙を鑑定してもらうことになるが……。
文字には書き手の魂が宿る
書を書かない書道家にして筆跡鑑定人の主人公が文字から謎を読み解く人の死なないミステリ。
平凡な女子大生・美咲が大学一の偏屈屋・東雲清一郎と関わったことで、文字にまつわる厄介事に巻き込まれていくのですが、筆跡鑑定から真実や想いが読み解かれていく登場人物たちの愛憎劇が興味深かったです。
しかし、これが『モテモテな僕は世界まで救っちゃうんだぜ(泣)』と同作家とは思えない。こういうのも書けるのか。作者名調べないと絶対に気づかんぞというくらいの180度方向性の真逆なシリアス路線でびっくりした。
東雲清一郎の毒舌クールっぷりがいいですね。優れた筆跡鑑定能力ゆえに好むと好まざるとにかかわらず、人の書いた文字から無意識に内面や本音を読み取ってしまうから、それなら人間嫌いになっても仕方がないか。
美形なのに無愛想な彼ですが、実は方向音痴だったり、スマホが使えなかったり、意外と抜けている一面があったりするのも女性読者には萌えポイントなんじゃないでしょうか。うん、クールだけど人間臭いのがいい。
謎のひとつひとつは対したことのないロジックで、読んでいて予想は容易なんですが、明確な証拠を得るため、犯人確定にいたるまでの筆跡鑑定が見所です。文字の特徴だけを手がかりに犯人像を追い詰めていく推理展開はなかなかどうして興奮します。名探偵の助手のように毎度事件に首をつっこんでくるくせに、危機感が抜けてて危なっかしい美咲を見かねて助けたり、次第に清一郎がデレていく姿にニヤニヤが止まらない。
人が人を愛おしいと想う心、反対に憎らしいと思う心。人はなんと美しいのかと思えば、次の話では人の醜さをつきつけられて、見えてくる登場人物の心理描写の対比が鮮烈で際どくて、読んでいて心を揺さぶってくる。
書いた字にはその人の内面が現れるとしたら、清一郎の書はどんなでしょうか、見てみたいですね。しかし、この話に出てくる書道家って、なんでみんな人格破綻者ばかりなのか。書道のせいなのねそうなのね。