戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 (HJ文庫) SOW ザザ ホビージャパン 2015-03-30 by G-Tools |
人型強襲兵器を駆り「白銀の狼」と呼ばれた英雄ルート・ランガートの夢はパン屋を開くこと。戦争が終わり、無事パン屋を営むルートだったが、その怖い顔のせいか、さっぱり売れない。そこで窮余の策で募集したウェイトレスとしてやってきたのは、白銀の髪と赤い瞳を持つ美少女だった。
美味しいパンを作ろう
元英雄のパン職人と人造人間の看板娘が繰り広げる街角パン屋繁盛記
パンが食べたくなります。読んでる間の脳内BGMは作る〜並べる〜売れる〜ふたりどぅびどぅばな感じでした。
巨大人型兵器の元パイロットだった主人公ルートが営む潰れかけのパン屋『トッカーブロート』にやって来た美少女スヴェンが看板娘となって店を蘇らせて、戦場での殺し合いしか知らなかった二人が平和になった時代で新たな居場所を守りながら手を取り合って第二の人生を歩みだしていく姿が微笑ましくて心温まりました。
作るパンはどれも美味しいのに強面のせいでお客が誰も入らなくて、誰かがパンを美味しいと食べてくれただけで感激して泣いてしまうような、見た目に反して繊細で涙もろいルートのギャップがユーモラスで萌える。
ルートの機体に搭載されたAIから生まれたスヴェンは目も覚めるような美少女で、商売も愛想も苦手な主人に変わって看板娘として接客や宣伝に乗り出し、店をたちまち人気店に押し上げていく活躍ぶりが痛快でした。
自分の正体は隠しつつも、ルートにベタ惚れなあまり、ときおり彼やお店を害する者には容赦のないブラック面を垣間見せる可愛いだけのヒロインじゃない、裏表があって嫉妬深いスヴェンの人間臭さが好きですね。
ようやく経営が軌道に乗りかけてきたところでテロ事件に巻き込まれて、再び戦いの中に飛び込んでいくことになるのですが、パン職人として不殺を貫くルートの生真面目さが甘っちょろくも誇り高く思えました。
お人好しの周囲にはお人好しが集まる。外見や経歴は関係なしにルートの人柄を慕って人々が集まり、過去のわだかまりや心の傷から開放されて、彼と一緒に新しい道を歩んでいく結末が素晴らしかったです。
ルートとスヴェンの恋愛模様も気になりますし、伏線やら謎やらもすべて明かされてはいないので、これは一巻完結にせずに是非ともシリーズ化して続編が読みたいです。パンのように柔らかで美味しい作品でした。