アルジャン・カレール -革命の英雄、或いは女王の菓子職人-〈上〉 (ファミ通文庫) 野村 美月 マニャ子 KADOKAWA/エンターブレイン 2014-10-30 by G-Tools |
革命とその後の混乱を経て、平和を取り戻したフロリア。その王都パリゼの隅で、劇作家のオーギュストは小さな菓子屋を見つける。そこは魅惑の菓子で溢れていたが、無愛想な銀髪の店主は何やら怪しげで、すわ革命派の残党か、或いは盗賊かと疑うオーギュストだったが…!?
無駄だらけの王国
女王の菓子職人として後に"菓聖"と呼ばれることになる青年の伝説ヒストリカル・ファンタジー
これは面白かった。読んでいる最中、何故ここに紅茶とお菓子がないのか!と身悶えしました。
革命後の内乱で"銀の猟犬"と呼ばれた英雄アルジャン・カレールが、菓子職人として第二の人生を送りつつ、若き劇作家オーギュストの持ち込む面倒事をお菓子作りで解決していくストーリーが心温まりました。
歴史ドラマでもあり、ラブストーリーでもあり、お菓子にかかわる人々の思いが素敵でした。
甘党なオーギュストがアルジャンの作るスイーツに惚れ込んで熱心に通い詰めるのですが、いつも感激屋で賑やかなオーギュストに比べて無表情でぶっきらぼうなアルジャンのキャラの対比が可笑しくて楽しい。
菓子店で店番をする看板娘のニノンがいい子で、身寄りをなくした彼女を気にかける姿にアルジャンの不器用な優しさが見え隠れしてニヤニヤ。さり気なく困っている人を助ける彼の人の良さが見て取れます。
ときおり、店を抜け出しては、ラヴィアンローズ宮殿へと通い、ロクサーヌ女王の菓子職人として腕を振るうアルジャンですが、現在の女王との馴れ初めは運命の出会いとでもいうべきもので、一介の兵士と追われる身の元王女の逃避行はロマンスが溢れて、ときめいてしまいますね。国民の誰もが贅沢できる豊かな国を作ると立ち上がったロクサーヌの勇姿が現在の平和なフロリアの日常風景に繋がっているかと思うと、感動も一潮。
お菓子を心の支えにして国を変えたアルジャンとロクサーヌ、さらにお菓子が縁で絆が生まれたオーギュストやニノン、ソフィーたち。お菓子を作ったり、食べたりすることで人々の心が和やかになって、幸せに包まれていく光景が素晴らしかったです。日々の暮らしに困窮せず、誰でも無駄なことを楽しめる。それが国の豊かさであり満ち足りた生活なのだなぁと改めて思いました。され、下巻はどんなお菓子が出てくるのか楽しみです。