![]() | アナザー・ビート 戦場の音語り (電撃文庫) 佐原菜月 尾谷おさむ KADOKAWA/アスキー・メディアワークス 2014-05-10 by G-Tools |
“旋律士”生まれながらにして旋律器官と呼ばれる特殊な紋様を身体に刻み、その器官から“音楽”を生み出すことのできる特別な存在。類まれなる才能を秘めながらも上手に音を操れない落第音学生の少女コハクと、貴族ご用達の有名作曲家・ヂェス。出会った二人の運命は、やがて大国が争う新たな戦乱へと巻き込まれていく。
戦場に響く天使と悪魔の合唱歌
音楽を奏でる旋律士の少女と作曲家の青年が繰り広げる音楽と歴史のファンタジー。
絵師効果もあってか、読んでいてなんだか懐かしい気持ちにひたれる素朴な雰囲気のファンタジーでした。
旋律士の落ちこぼれの少女・コハクと作曲家の青年・ヂェスが出会い、二つの大国の思惑に巻き込まれ引き離された二人が戦争を止めるため、音楽の力で戦場に集まった人々の心を動かす光景に胸を揺さぶられました。
人々に想いを伝え、心を動かす音楽の力をテーマにした、久しぶりに読み応えのある作品でした。
ヒロインのコハクは、良く言えば自由奔放な女の子、悪く言えば無作法な問題児なんですが、楽団に合わせる貴族音楽よりも、町中の平民に混じって即興演奏している姿のほうが親しみやすくて魅力に思えました。
一般的な旋律士としては落ちこぼれのコハクの才能をヂェスだけは見抜いて、ヂェスとの出会いから少しづつ変わり始めたコハクですが、馬鹿な貴族のせいで事態が徐々に悪い方へと転がっていくのがもどかしい。
貴族音楽も旋律士もいない外国に来て、ようやく本来の自分の音楽を奏でて人々に認められるようになったコハクの姿が喜ばしく、けれど彼女を利用して私利私欲の戦争のきっかけとする悪しき王の企みが許せない。
自由気ままな青年かと思いきや実は一枚もニ枚も裏の顔を持っているヂェスのキャラが意外で、コハクを捕らえた神国の思惑を読んで彼とともに王国の秘密部隊として動く旋律士たちの姿に一杯食わされました。
歴史の謎を紐解いて、王国と神国に隠された伝説の真実を解き明かす歴史ロマンとしても読めましたね。
ただ作中の音楽描写は、文章だけだとわかりづらかったな。いや、あまり専門用語を使われてもわからんのだけれど、こうした音楽ものは実際にある曲を元ネタにしないとイメージしにくいから難しいですね。またこれだけ音楽が重要視された世界なのに楽器が発達してないのが不思議すぎる……イッツファンタジーですわ。