殺戮のマトリクスエッジ (ガガガ文庫) 桜井 光 小学館 2013-11-19 by G-Tools |
西暦20××年。旧東京湾上に建設された次世代型積層都市トーキョー・ルルイエ。この都市には、電脳を喰らう獣がいる。それは、電脳ネット上、どこにも存在しない、人喰いの化け物どもだ。そして、彼・小城ソーマは奴らを狩る。鮮血と電子の満ちる裏路地で、彼は独り、獣を狩る。ある晩出会った不思議な少女と共に
その刃は、恐怖を断ち斬る
ホラーと呼ばれる電脳の怪物を狩る少年と不思議な少女が都市の暗部に迫るサイバーパンク。
すごく出来は良いものの、これといって面白味がなくて、「ククリちゃん可愛い!」しか残らない。
海上に建築された近未来都市の重厚感とか、インプラント手術によって埋め込まれた電脳を用いたインタフェース技術とか、表面上は幸福に思える完全管理社会の裏のドス黒いディストピア観とか、非常に設定が作り込まれて、表現力も卓越した技術を感じるのだけれど、真面目過ぎる。もうちょっと砕けてもいいんジャマイカ。
主人公のソーマもクールで強くて、格好良いは格好良いんだけれど、愛着がわかない。賢いようでちょっと世間ズレして常識に欠けたところが萌え要素なのはわかるんだが、人間味や人情味が見えてこなくて、ロボットが人間の真似をしているみたいで、不気味に思えてしまった。設定からしてそういうキャラを目指して作られて、その通りに描けているけれど、ククリちゃんも感情が読めない子だから二人一緒だと余計に淡白なんだよ。
戦闘シーンも熱いは熱いのだが、普通にやってしまっているのがなぁ。リアリティはあるんだけれど、ラノベはエンターテイメントなので、もっと異能とか、ルビ文字のついた特殊武器やプログラムが飛び交うような、裏技、チート技満載な中二病っぽさが欲しかった。ソロで戦わせていると戦略戦術、仲間との連携のような描けず、駆け引き要素が薄くなってしまって、結局最後はゴリ押しで意外性がなくなっちゃうんですよね。
もうちょっとユーノやククリをソーマと絡めて、キャラを掘り下げてくれたら。ユーノがもっとソーマの素顔に踏み込んでいくかと思えば中途半端な距離感を保ったまますれ違い、当たり障りなさすぎてモヤモヤする。
やはりSF小説として、ジャンル・サイバーパンクの完成度としては高い。文章や設定、世界観の雰囲気に酔える人は十分満足できるんじゃないでしょうか。ただラノベ読みとしてはハヤカワでいいんじゃね?って気が。