ギルティブラック&レッド VAMPIRE the 1,000,000 kills (富士見ファンタジア文庫) 小林 がる 有坂 あこ 富士見書房 2013-05-18 by G-Tools |
かつて“万人殺し”と呼ばれる最強最悪の吸血鬼だった罪を背負い、死んだように生きる少年・辰巳。彼の住む超深度地下都心・黄泉津は、人間と吸血鬼が血液銀行というシステムで、表向きは平和裏に共存する街。しかし…。とある偶然から“聖女”とあだ名される血液銀行の取立人・アキラと出逢い
愚か者たちの必要悪
破産した吸血鬼を救い上げる借金取立人になった少年と少女が織り成すヴァンパイアアクション
これは一風変わった設定。金がなければ吸血鬼でも人間に狩られるという生々しさが溢れているのがいい。
吸血鬼に血液を貸し出して取り立てる血液銀行の美少女取立人・アキラと、彼女のパートナーになった主人公・辰巳が、金と力と血液がすべての社会の中で、損得感情を越えて人助けに奔走する姿に魅せられました。
ときにあらすじや帯コメントがネタバレ以外の何物でもないのは、もっとなんとかならなかったのか……。
困っている人がいれば手を差し伸べて、貧しい人にはお金を差し出してしまう善人の見本のような主人公の辰巳ですが、ただのお人好しと呼ぶには行き過ぎた善意が狂気めいているキャラが非常に危なっかしいですね。
ヒロインのアキラも、血液銀行の取立人としては、相手の吸血鬼に肩入れしすぎていて同じくらい危ういところがあり、そんなアンバランスな二人が仕事の相棒となり、お互いの欠点を補い合う関係が微笑ましかった。
少しずつお互いを理解し始め、絆が芽生えかけようとしたところで、過去に犯した罪悪感で死にたがる辰巳と、人情と理想と正義感から万人を救おうとするアキラとで気持ちがすれ違ってしまうのは切なかったですね。
どんなことがあっても常に前を向いて理想を追いかけるアキラの強さが眩しくて、そんな彼女に惹かれて奮い立ち、自分の過去を乗り越えていく辰巳も格好良かった。ま、まさか辰巳が<万人殺し>だったなんてー(棒)
<黒髑髏>の正体は、読み込んでいくと、「ああ、あいつか!」と気づけば意外性はありましたけどね。
今回はスケールのちょいと大きい銀行強盗レベルの騒動だったものの、事件の首謀者をさらに率いる本当の黒幕の組織だとか、辰巳と姉妹たちの実家の機関の企みだとか、もっと壮大で深淵な政治と金と権力の気配がチラチラと出ているのが、期待感を煽りますね。それら相手に何処まで通じるのか二人の夢と理想を応援したい。