ダフロン

2007年02月17日

扉の外/土橋真二郎

4840237174扉の外
土橋 真二郎
メディアワークス 2007-02

by G-Tools

【修学旅行に行くはずだった四組が眼を覚ますとそこは閉鎖された空間だった。人工知能ソフィアと名乗る存在が示したのは唯一絶対のルール。しかし、千葉紀之はひとりルールを拒み・・・】

ラストが最低だこれ!

密室に閉じ込められた高校生たちのバトルロワイヤルです。
閉鎖空間に監禁されゲームによって自分たちの「国」を守り、
他国を侵略し、富を蓄えることを強制された、まさにいまの世界の縮図を描いた学園サスペンスかつミステリ。
このゲームの一番唾棄すべき点は、相手の顔を見せないことで、他人を犠牲していることの罪悪感を与えないことですね。
戦争・軍略シミュレーションとか私の大嫌いな類のゲームだ。

ここまで人間関係や現代社会を醜悪に描かなくてもいいんじゃないかと眉をひそめたくなるほど人々が生々しくて醜い。
これよりもっとグロい内容のラノベは大量にあるけれど、これほど嫌悪感を持ったことはありません。ただ気持ち悪い。

それに人工知能ソフィアやシェルターのようなこの施設の存在、ゲームの目的についての説明的解決が最後までない。
世界観に関わる重要な謎を設定し、話を盛り上げるだけ盛り上げておいて最後に用済みとばかりにほったらかし。
本筋の構成はとてもよく出来ていて、途中までは高評価だったのですが、最後の最後で作者がまとめきれなかったツケを読者に支払わせるというやり方が気にくわない。

私も千葉紀之の言い分は誰より理解できるつもりです。
集団生活なんて息苦しい。みんな一緒なんてバカらしい。
誰かに媚びるのも、誰かから頼られるのも真っ平御免。
消防の頃から通信簿に何度「協調性が欠けている」と書かれたことかわかりません。中高生の頃は、学園祭の準備にも後夜祭にも参加しなかったし、合唱コンの朝練はサボってた。

しかし彼と私の決定的な差は、そんな自分を心底「恥ずかしい」と感じていた点。だってそんな人間を格好いいと思う?
「命令されたくない、従いたくない、いつまでも自由でいたい」
それは子供だから許されるワガママです。大人が平然と言っていいセリフではない。それが私の「常識」です。

学校を出て会社に就職すれば、個人の意思を殺され、ただ「社会の歯車」として唯々諾々と生きていく人生しかない。
そんなのは揺りカゴの中で管理されてきた子供の幻想です。
仮にも社会人である私にとってみれば「バカにするな!」と怒鳴りつけてやりたくなるくらい酷い侮辱です。
社会に帰属するというのは、敗者として生きることではなく、
本当の自由と責任を誇れる強者の生き方だと思ってる。

そんな職業観をついつい語りたくなるほど、ある意味で世界情勢や人間関係について考えさせられる、現代の中高生には得がたい作品ではあるのだが、私は最悪激烈に嫌いです。
読むんじゃなかった。
posted by 愛咲優詩 at 00:00| Comment(3) | TrackBack(3) | 電撃文庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ストレートで激しい感想ですね!
同じ作品の感想が載っている時はいつにもまして興味深く読まさせて頂いております。
私の方も「そろそろネタバレ解禁でいいかな?」と思って色々追記してみました。良ければ一度覗いてみて下さい。
・・・とは言っても、この作品で不快な思いをされたようですので、気が向かれたらですが・・・。
Posted by hobo_king at 2007年02月21日 03:57
返信が遅くなって申し訳ありません。

ラストさえちゃんと描けていれば、事実がどうあれそれなりに納得できたんですが、それさえもなく尻切れトンボというのはやはりあまりにも酷いと思うのですよ。
ただの社会風刺は一般文芸にまかせておけばいいわけで、ラノベはそれをエンターテイメントにしなくてはならない。
簡単にいえば、最後に「笑える」要素のない作品は、いくら巧くても私には相容れない存在だったということですよ。
Posted by 愛咲優詩 at 2007年02月24日 19:58
丁寧なコメント返し、ありがとうございます。

>ただの社会風刺は一般文芸にまかせておけばいいわけで、ラノベはそれをエンターテイメントにしなくてはならない。

なる程・・・確かにライトノベル=エンターテインメントの図式というのは常に成り立っていなければいけない部分ではありますね(これは宿命でしょう)。これは私にもがっつりと同意出来る部分です。

私の場合、この作品に見いだしたエンタメ部分は、三女神達がいわゆる「中二病」の少年が出会う(あるいは今後出会う事になる)「資本主義社会」であり「民主主義社会」であり「武力の支配する世界」(場合によってはナチズム含む)のメタファの様に捉えられました。
その出会いを通じて少年が最終的に「無神論的実存主義」に目覚めて行く過程を描いたエンタメもの、の様に捉えられたのです。

その辺りをいわゆるラノベ的な記号に置き換えて表現した所に魅力を感じていたのですが・・・まあどこまで行っても「中二病」的な意味合いにおいて、不愉快な主人公である事だけは間違いないですね。

考え方にによっては「主人公の醜さ」「社会の醜さ」がなければ成立しない物語、とも取れる訳で、ここが既にエンタメから逸脱していると捉えた場合、大きな不快感のみ残る作品になるというのは大きく同意出来ます。

>ここまで人間関係や現代社会を醜悪に描かなくてもいいんじゃないかと

ある意味においてこの部分が全てなのかも知れませんね。スタートライン(性悪説)からして、読み手によっては同意しかねる部分がある、という事でしょうか・・・。

長文失礼しました。
Posted by hobo_king at 2007年02月26日 10:53
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