ダフロン

2012年12月11日

ソードアート・オンライン 11 アリシゼーション・ターニング/川原礫

4048911570ソードアート・オンライン11 アリシゼーション・ターニング (電撃文庫)
川原礫 abec
アスキー・メディアワークス 2012-12-08

by G-Tools

上級修剣士となったキリトと親友ユージオの二人は、整合騎士目指し、修行の日々を過ごしていた。上級修剣士の二人には、身の周りの世話役があてがわれる。キリトにはロニエ、ユージオにはティーゼ。四人は互いに絆を結び、充実した修士生活を過ごしていた―その時。突然、悪意はやってきた。

 法よりも守るべき正義

 現実に限りなく近い仮想世界《アンダーワールド》に閉じ込められた黒の剣士のVRファンタジー。

 キリトさんだけんじゃなく、ユージオさんもモテモテやった。キリトさんに弟子入りしたい……。
 上級修剣士に昇格し、傍付きの少女たちとも仲良くやっているキリトとユージオですが、そんな二人をやっかむ貴族の仕掛けた罠にハメられて、栄光の道から堕ちていく姿がやるせなかったです。
 禁忌目録によって争いのない完璧な理想郷と思われた世界に潜む悪意に怖気が走ります。

 庶民でありながら実力で上級修剣士に上り詰めたキリトとユージオが下級生から尊敬を集める一方で、それが面白くない貴族たちから嫌がらせを受けるようになり、正面からの剣の打ち合いでは分が悪いと見るや、攻撃の対象を弱い者へと変えて追い詰めていく陰険さと下劣さに吐き気がしますね。
 規則の悪用を正した行為が罪となってしまい、罪人になってしまうキリトとユージオがもどかしい。

 探し求めていたアリスと思いがけない形で再び巡り会えたものの、感動の再会とは程遠くて、両者に生まれた齟齬の原因を突きとめるべく、牢を抜け出す脱走劇には緊張感が張り詰めました。
 整合騎士に追い詰められ、あわやという寸前で救われたものの、公理教会の生い立ちに関わる世界の真実が明かされ、箱庭のようなアンダーワールドを支配する悪意の強大さに愕然としましたね。

 アンダーワールドの問題と連動して、現実世界の側でも事件が起きそうなフラグがビンビンなんですが、ここのところ空気嫁と化しているアスナさんになんとか頑張って活躍していただきたい所存。
 さすがにラスボスとはパワーバランスが違いすぎるんだけど、外部からの支援がないことにはどうしようもならなくないかこれ。果たして巨悪の根源を倒すことが出来るのか、後半戦に期待。

posted by 愛咲優詩 at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 電撃文庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
個人的意見ですが、SAOはデスゲーム系の開祖であるクリス・クロスの深化・発展に成功した作品なのだと思います。

具体的には、仮想世界だけでなく現実世界にまで舞台を広げる事でリアリティと重層展開を獲得し、主人公達が様々な仮想世界を渡り歩く事で世界観の拡大に成功。更にはVRシステムの医療応用を通した社会問題の導入。

そしてそれらの集大成として『量子脳理論を下地にした真のAIの創造と文明シュミレート』を題材にしたアリシゼーション編を作り上げた事で、SAOはこの系列では他に類のない大規模な世界観の構築を成し遂げたのだと思います。

その過程で『生と死』『好意と敵意』『本物と偽物』『仮想と現実』最後には『人間の本質とは何か』といった様々なメッセージを、主人公を中心とした人間模様に組み込む事で物語性を高めています。

つまりSAOは『ただゲームをするだけの展開』からの脱却に成功し、様々なテーマ性を設けることで類似作品に大きな差を付けることに成功した作品なのだと思います。そういう意味では、第2章以降の展開によってSAOは真に独自性を得たのだと思うのです。

仮想と現実で交錯する物語、中核にはヒロインとの愛があるという点においては『マトリックス』との類似性を指摘したいですね。

また、たまに『SAOは主人公の事持ち上げ過ぎ』といった批判を見かけますが、アレは少しピントがずれていると思います。

SAOという作品はそもそもにして様々な主義主張が対立し合う作品では無いのだと思いますね。善と悪の構図は割とはっきりしています。この作品の作風は前述した『生と死』『好意と敵意』『本物と偽物』『仮想と現実』からわかるように、二項対立。この作品内の人物達が、主人公の敵か味方に陣営がはっきり分かれてしまうのもそれに由来しているのだと思います。

SAO編もALO編もその後の章もそうですが、ソードアート・オンラインは基本的に『理不尽な状況に対して人々が結束して抗う物語』です。プレイヤー達にはゲームクリアをはじめとした共通の目的があり、互いにいがみ合う必要が基本的にありません(多少の小競り合いはあるようですが)。

彼らの価値観は世間一般の常識の枠を出ず、善良な一般市民代表といった立ち位置なのでしょう。対立する理由が無いが為に、主人公に近しい人物であるメインキャラクター達は皆キリトへの好感度が高いのだと思います。

これに対立するのが茅場や須郷、死銃やPoH。彼らは端的に言って狂人であり、この作品における理不尽を体現するキャラクター達。その価値観は常識とは絶対に相容れず、主人公陣営との和解も有り得ません。

つまり、キリトを持ち上げているとかマンセーし過ぎという話ではなく、あくまで一般人・常識人としての価値観を持つキリトは周囲から別段嫌われる理由がないだけなのでしょう。 その上で、主人公の役回りとして人助けなどをしているわけだから、好かれてもおかしくないという事だと思います。

悪く言ってしまえば『中庸の心理を持つ人物がほとんどいない』ピーキーな作品なのですが、それゆえにSAOの登場人物達は皆『感情が剥き出し』なんですよね。曖昧だったり、ぼかしたりしない。敵も味方も、自分の感情を隠さないでぶつけ合う。茅場の理想、須郷の欲望のように悪側にも純粋な一つの感情があり、それに突き動かされている。故に安易な勧善懲悪という構図にはならない。この作品の登場人物達から生気が感じられるのは、そういった理由なのだと思います。つまり、皆とても人間くさいのです。

そういえば、愛咲さんはあまりAWに好感を持たれなかったようですね。たしかにハルユキはかなり卑屈なキャラクターとして描かれてはいますが、1巻で判断するのは少し早いかもしれませんよ。

個人的な意見ですが、彼はキリトと対極に位置する主人公なのだと思います。キリトが抱えていたのが『強者故の苦悩』であったのに対し、ハルユキが抱えるのは『弱者故の苦悩』。妬みや嫉妬、容姿コンプレックス、いじめられっ子、低い自己評価…まさしく人間の負の側面を体現するキャラクターですね。

心の傷を元に生まれるデュエルアバターという設定からして、AWという作品はおそらく『自分自身に打ち勝つ物語』なのでしょう。登場人物達は皆何かしら暗い過去を持ち、それ故に英雄的資質を持つ存在は皆無です。キリトという英雄の物語であるSAOと違い、この作品はひどく泥臭い。

しかしながら巻数を経る事に成長し、強く、たくましく成長するハルユキの姿はキリトとはまた違った魅力を持っています。AWは彼の成長の物語でもあり、泥塗れになっても、這いつくばっても立ち上がろうと足掻く彼の姿にこそこの作品の本質がある。いつかまた手を伸ばしてみる事をおすすめしますよ。好き嫌いの差こそあれど、川原礫作品は基本的に外れ無しであると思いますので。
Posted by ラムダ at 2012年12月15日 19:52
ラムダさん、長いコメントありがとうございます。

私もキリト君は、ただの俺TUEEE系主人公ではないと思います。
確かに他人と比べて高レベルで、真似できない技を持っています。
しかしそれらは彼が自力で経験値を稼ぎ、特訓を得て磨いたもの。
才能ではなく努力の結果です。

作中ではあまり描かれないため、誤解されているように思います。
我々でも努力さえすれば、彼と同じ強さを得られる。
そう考えれば彼に嫉妬どころか、尊敬すら感じてきます。
彼を嫌う人は、他人の努力を評価できない人たちなのでしょう。

またキリト君が戦いを挑んでいるのは人ではなく、常にゲーム世界。
SAO、ALO、GGOでも、システムそのものに対して立ち上がり、
ゲームクリアという勝利を収めるべく活躍して回る。
強さにばかり焦点が当たりますが、彼の交渉術や駆け引きも相当ですよね。

ことMMORPGにいたっては、最強の力とはレベルやスキルではなく、
コミュニケーション能力であることは、MMO経験者なら理解できると思います。
どんなに個人で強い能力を持っていても、ギルドの数の力には勝てません。
1対多の状況で戦うときにも、いかに1対1の状況に持っていくか、
例えば3巻でのユージーン将軍との戦いなどは、彼の戦術的勝利でしょう。

AWは主人公含め、キャラクターが好きになれませんでしたね。
というのも主人公に必要な資質は、主体性だと思うのです。
読者に「なぜ自ら行動を起こさないのか」と言われてしまうようではいけません。
シリーズを重ねるうちに成長していくのだとしても、
何故1巻から主人公の魅力を封印してしまうのかがわかりません。

そしてヒロインも主人公の力だけが目的のように思いました。
もし主人公が人より優れた反応速度を持っていなければ、
彼女は始めから彼に接しようとはしなかったのではないでしょうか。
続巻ではどうかはわかりませんが、彼らの絆は相互理解、心の交流、恋愛とは思えませんでした

キャラ重視であるラノベで、そうした人間力が低いのは問題があるように思いました。
故に私はAWを読むまいと決めていたのですが、折があったら試してみようかと思います。
ご意見、ありがとうございました。
Posted by 愛咲優詩 at 2012年12月17日 00:47
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