紅炎のアシュカ (このライトノベルがすごい!文庫) 紫藤 ケイ Nardack 宝島社 2012-12-10 by G-Tools |
かつてこの地上を荒らし回った《根絶者》アシュバルド。その化身を自称する少女アシュカは、《駆神人》の少年ラティス、《小妖精》のリルと共に、街から街へと旅を続けていた。他の化身たちと出会うために――。
強さは人生を孤独にする、弱さは人生を豊かにする
人と精霊が共存する世界で魔王の化身の少女が同胞を求めて旅をする異世界ファンタジー。
魔王アシュバルドの欠片の化身である少女アシュカが、同胞を探す旅の途中で人間や精霊たちとの出会いを通じて、周囲への思いやりや他人の痛みを理解して成長していく姿が微笑ましかったです。
これまでのハードコアな世界観を持った二作品とは真逆に、ファンタジーと言えばRPGという最近の若い世代に受け入れやすいように工夫が施された入門用ファンタジーといった趣でした。
ヒロインであるアシュカは、5つもの街を滅ぼした魔王アシュバルドの化身といっても、肉体の末端の末端で、見た目も強さも常人とあまり変わりがなく、世間知らずであっても素直なところが可愛かった。
同胞を探し出して魔王を復活させようとするあまり、旅の同行者であるラティスやリルを困らせることもあるけれど、心根は優しく正義感に熱くて、邪悪な存在とは思えない姿に戸惑いますね。
一方で魔王の化身を名乗る同胞たちの中には、自分の力に驕るあまりに周囲の人間たちを傷つけることを躊躇わない者もいて、そうした化身たちに故郷や大切な人を奪われる不条理がやるせない。
邪悪な同胞を倒すため、化身であるアシュカ、ラティスたち駆神人、人と敵対する魔精霊たち、弱い者たちが種族の垣根を越えて力を合わせて強敵を倒す展開は王道でしたが胸が熱くなりました。
魔王アシュバルドがどうして禁術をかけて自分の身体を裂いたのかという理由にも、悲しいエピソードがあって、強いからこそ間違いを犯してしまう、間違いを理解できない、強者の悲哀が虚しかった。
弱いからこそ別け隔てなく他人と繋がることできるアシュカは、魔王アシュバルドが望んだ理想で、自分の復活よりも大切なものを見つけたアシュカが素晴らしかった。クセのないファンタジーで読みやすかった。