楽聖少女2 (電撃文庫) 杉井光 岸田メル アスキー・メディアワークス 2012-09-07 by G-Tools |
ルゥはスランプに陥っていた。新作の曲が革新的すぎて既存のピアノでは弾けず、新楽器の開発も行き詰まっていたからだ。そんな折、フランス軍がウィーンへ進攻。僕はついに魔王ナポレオンと相まみえる。そこで知るのは、魔王のあまりにも意外な素顔と、この歪んだ十九世紀世界の秘密の一端。
これは、あなたたちの物語
二百年前のウィーンへ時間移動した少年の魔術と音楽が入り乱れるめくるめく絢爛ゴシックファンタジー
この時代にもヤクザっているんだなぁ……。えっ、楽団員? どう見ても平坂組のバカどもじゃないか。
フランス軍の進攻が迫るウィーンで、逃げもせず作曲活動に励むルドヴィカを見守る主人公ユキが、音楽家と革命家のガチンコバトルに巻き込まれ、悩み苦しみながらも関わっていく姿に心がざわめいた。
魔術によって歪められた歴史を正しき方向へと改変する、創作者たちの熱情に鳥肌が立ちました。
現時点で発明されているピアノの性能を越える新譜を閃いてしまう、その既存の枠に囚われない発想力こそ天才と呼ばれるベートーヴェンなんでしょうね。彼女の頭の中ではどんな音が流れているのか。
ルゥの望む音を出せるピアノを求めて職人たちも頭を悩ませて、外国の新技術をピアノ作りに取り入れたりと様々な工夫を凝らして、こうして楽器とは、音楽とは精錬されていくのだと気付かされました。
ナポレオンに怯えた皇帝が、ついに和睦交渉に入り、戦争が回避されたかと思いきや、ナポレオンとユキとの初対面では穏やかじゃない雰囲気が漂い、一方でナポレオンと因縁深い人物とも知り合って、さらにはメフィが勝手に他の人間と魔術の契約を結んでしまったりと、どんどん引くに引けないドツボに嵌っていくユキですが、振り回されっぱなしではあっても、自分のなすべきことを見出してからの行動は逞しかった。
それまで目を背けていたファウストとしての自分と向き合い、救われぬ者たちを軛から解き放つことができたのも、ルドヴィカの音楽こそきっかけではあったけれど、ユキにも眠れる熱情があったなればこそ。
自分を見失いかけていたユキが、創作を通して自分探しをしていく姿は、前向きな成長を感じました。
ナポレオンとの決着は持ち越しですが、彼も悪魔の被害者だし、救ってあげて欲しいなぁ。