![]() | 創世の大工衆(デミウルゴス) (このライトノベルがすごい! 文庫) 藍上 ゆう ぴょん吉 宝島社 2012-07-10 by G-Tools |
かつて武力ではなく圧倒的な建築技術で戦乱から民を救った伝説の大工。時は流れ、亜人の国で奴隷工として暮らす少年の前に、ひとりの少女が現われる。高度な建築技術を持ちながら、性格に超難アリの彼女こそ、その伝説を継ぐ者だった。そんな二人の元に、この国の女王から依頼が舞い込むが。
平和を築く職人魂
かつて戦乱の世を治めた大工衆の伝説を受け継ぐ少女と一人の少年が織り成す建築ファンタジー。
剣でも魔法でもなく、建築技術でもって世界を平和に導く! こ、これは新感覚のファンタジー!
先祖が犯した罪により囚われの奴隷工として生きてきた主人公・カナトが、伝説の大工集団『創世の大工衆』の末裔である少女・シアに弟子入りし、彼女の仕事に付き従い建築技術を学ぶ傍ら、過去の偉人たちが遺した設計図の謎を紐解き、歴史の新たな1ページを築いていく光景が素晴らしかった。
亜人の国クーラントで唯一の大工として、奴隷ながらも仕事に誇りを持っていたカナトが、『創世の大工衆』であるシアの高度な建築技術を目の当たりにし、なけなしのプライドまでヘシ折られる姿は哀れ無残。
しかし、自分の未熟さを思い知って落ち込みはすれど、初めて目にした彼女の神がかった技術を前に、それ以上に心が沸き立ち、大工として純粋な憧れを抱く根っからの職人気質は見上げたもの。
技術と経験はあれども、人付き合いが悪くキツい性格のシアに真っ向からぶつかっていくうちに、『創世の大工衆』の実像を知り、重圧を背負って悩み苦しむシアの本当の姿にもよく気づいたなと感心する。
自分が見失いかけていた『創世の大工衆』が目指す世界平和の信念をカナトに感じて、彼女の頑なな心も徐々に溶けていく二人の職人の交流には、読んでいて熱いものが込み上げてきました。
人々の幸福を願い、城壁や家、街並を建設することで平和と安息な暮らしをもたらす大工。でもその大工本人の幸せと平穏は誰が与えてやればいいのかという、ジレンマがもどかしくて、やるせなかった。
ただの建物を越え、新しい歴史を作り上げた二人の功績は、伝説の『創世の大工衆』の偉業にも恥じない名建築だった。彼らには自分たちの幸せも含めた真の世界平和を創りあげて欲しいと願ってやまない。