ベイビー、グッドモーニング (角川スニーカー文庫) 河野 裕 椎名 優 角川書店(角川グループパブリッシング) 2012-03-31 by G-Tools |
「私は死神です。つい先ほど、貴方は死ぬ予定でした。でも誠に勝手ながら、寿命を三日ほど延長させて頂きました」夏の病院。入院中の少年の前に現れたのは、ミニスカートに白いTシャツの少女だった。
繋がって、受け継がれて、巡り廻る命
人間の魂を回収する死神の少女と人間たちの贈る優しい死の物語。
◆A life-size lie
心臓病で死期を迎えたものの、死神によって寿命が伸ばされた三日間の時間で、生きることと死ぬことを見つめ直し、自分の死後に残された者の思いを改めて考え始めるシーンが印象的でした。
幼馴染であり、自分を支えてきてくれた少女に対して、複雑な思いを持ちつつも、それ以上に彼女の存在に感謝していて、諦めきっていた彼が死ぬ前に自分のことよりも誰かのことを思う姿が素敵でした。
◆ジョニー・トーカーの『僕が死ぬ本』
夢半ばに散った作家が無念だけれども、最後には苦悩から解き放たれたのが唯一の救いか。
芸術的でない文章に価値はないのかと言われば、決してそんなことはない。むしろ、どんなに高尚で綺麗な文章でも、結局、読者にとって面白くなければ、それは価値がない。作家の自己満足だよ。
児童書作家は、読者に純粋な夢と希望と感動を与える、作家の理想像だと思うんですけどね。
◆八月の雨が降らない場所
死期を宣告された人間が、自殺志願者を救い、良い人をこの世に残そうとするのが切なくも美しい。
ハラダの思いついた『幸福の連鎖』は、洋画『ペイ・フォワード 可能の王国』が元ネタかな。
例え、自分が死んでしまっても、自分の始めた理想が世の中を良い方向へと変えていくとしたら、それはただ漫然と生きていくことよりも、よっぽど価値があることなのかもしれないですね。
◆クラウン泣かないで
教養もあってユーモアもあるクラウンがいいおじいちゃんだなぁ。初めてできた孫娘に、自分の死を重荷に背負わせないために、わざと嘘をつくその優しさが健気で泣けてきます。
これまでの話が、第一話に登場してきた佐伯春花のもとで繋がるのがよかった。命は繋がっている。それは魂だけでなく、思いや理想が受け継がれていくことで、命は途切れることない。
ちょっとシリアスで重いけれど、死について考えさせられるいい作品でした。