![]() | 名探偵に薔薇を 城平 京 東京創元社 1998-07 by G-Tools |
【無味無臭。致死量0.1g。死因は心不全としか判別できない完璧な毒薬『小人地獄』。腐った乳児の脳髄より生成されるという、その狂気の毒薬を巡る人々と悲しき名探偵、瀬川みゆきの物語】
「全ての謎、全ての不可解を解明できる存在を信じますか」
神は信じないが、名探偵は信じる
「スパイラル 推理の絆」や「ヴァンパイア十字界」の原作者、城平京のデビュー作。
以前から評判を聞き探し歩いていたのですが、ようやく手に入り読むことが叶いました。ぶっちゃけ、Amazonに頼ったさ!
この物語の魅力は、なにより瀬川みゆきなくして語れない。
無慈悲な瞳。周囲への無関心を感じさせる美貌。長髪に黒いリボン。冷酷に謎を解き、無情に犯人を白日の元へと晒す。
推理の天才。しかし、それ故にとても脆く儚い孤高の存在。
誰よりも名探偵としての才能に恵まれながら、
彼女が辿り着く真相は、いつも哀しい結末を迎えてしまう。
事件を解決する度に、その真実に彼女は絶望し、心は悲鳴をあげる。それでも彼女は名探偵であることを続けていく。
人々を不幸にしてしまった己の推理を間違いにしないために、名探偵であることの業を背負って生きていく。
真実が必ずしも幸福な結果を招くとは限らない。
望まない天才の苦悩が嫌というほど伝わってきます。
過酷な運命を背負い、どこか退廃的な雰囲気をもつ主人公像は、鳴海歩やストラウスのアーキタイプなのでしょう。
肝心のストーリーは二部構成。
第一部『メルヘン小人地獄』では、とある毒薬にまつわる連続殺人事件に巻き込まれた家族を描きます。
第二部『毒杯パズル』では、第一部を内包しながら、二転三転する真実に瀬川瀬川みゆきが翻弄されていきます。
とくに動機のパズルを展開する『毒杯パズル』が傑作。
しかし、どんな不可解な事件も、まずすべて瀬川みゆきという名探偵を魅せるためのガジェットとして扱っている。
高度な論理パズルに拘泥することなく、キャラを際立たせる。
ここにも城平京のストーリー精神が現れています。
事件に巻き込まれた弱者を救うのが名探偵ならば、
名探偵を救うのは誰なのだろうか?
「誰か瀬川みゆきを救ってやってくれ!」そう願わずにはいられない。どうか彼女にも信じる者の幸福を。
エンディングが胸に痞えて離れない・・・。
![]() | スパイラル―推理の絆 (15) 城平 京 水野 英多 by G-Tools |
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