![]() | 少女不十分 (講談社ノベルス) 西尾 維新 碧 風羽 講談社 2011-09-07 by G-Tools |
少女はあくまで、ひとりの少女に過ぎなかった…、妖怪じみているとか、怪物じみているとか、そんな風には思えなかった。
正常であるための不十分条件
とある小説家に影響を与えた10年前の奇妙な体験談。
ページを捲るたびに戦慄が走るこの読み応え、久しく忘れていました。まさに原点回帰。
小説家の主人公が10年前に出会い、束の間、一緒に過ごした少女・Uの抱えた心の闇に圧倒され、彼女がどうしてそうなってしまったのかという謎が明かされるにつれ背筋がゾッとしました。
あたかも作者の西尾維新本人の自叙伝のような印象を与える語り口で、読み解いていくと興味深い。
大学への通学途中で遭遇した交通事故をきっかけに、普通とは少しズレた感性を持ってしまった少女・Uと出会い、彼女との共同生活に陥っていくのですが、甘い雰囲気なんてどこにもない・・・・・・。
いつでも逃げ出せるのに現状維持に努めて、ニヒルを気取る主人公は小学生相手に何をやってん。
それ以外の自分自身についてのいくつかのエピソードからも生来のダメ人間っぽさを伺わせますね。
ごくごく普通の女子児童のようでありながら、何気ない所作や言動のそこかしこで奇妙な違和感を与える少女・Uの不可解さと不気味さに最初は惑わされましたが、時折、年相応の無防備な一面も垣間見せる彼女に徐々に憐憫の情を抱き始め、一向に姿を現さない彼女の両親の存在を訝しんだ主人公が除き見てしまった真実はあまりにも悲惨で過酷だった・・・・・・。
彼女を救うためには、もっと早くて、もっといい解決方法が他にあったのかもしれませんが、心を病んだ彼女に生きる気力を与えられたのは、小説家としての主人公の存在があったからこそじゃないかなぁ。
本当の絶望に陥っている者に、ひとときの夢物語で希望を見せるのが、小説家という職業なのかもしれないですね。ほとんどセリフや会話文のない、淡々とした独白形式でしたが、それが話の独特の雰囲気を盛り上げているように思いました。台詞回しはなくとも言葉遊びに溢れている、これこそ西尾節。