花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫) 杉井 光 るろお 小学館 2011-02-18 by G-Tools |
「乗れ、おまえの翼だ」――桜とリンクした戦闘機の適合者として選ばれたぼくは、桜子とともにその超兵器《桜花》のパイロットとなり、色気過多の先輩や凶暴な空母艦長に囲まれ、新しい仲間と災難続きの訓練、そして激化する戦争に否応なく巻き込まれていく。
大空に咲く弾丸
時を止め、永遠に舞い散る桜とともに、戦空を生きる少年少女の美しくもせつない物語。
ブルマを履いた美少女天皇陛下に「靖國で逢おう」とか言われたら、そりゃあ日本国民命かけますよ。
皇国の超兵器《桜花》のパイロットになった主人公・佑樹が、同じく《桜花》のパイロットで皇族の最後の生き残りである桜子と共に、戦死者たちの遺志を胸に抱いて空を翔ける光景が儚く美しかった。
やはり杉井さんはこういう切ない系のボーイミーツガールを書かせたら天下一だなぁ。
佑樹のヘタレっぷりと陰気さには辟易させられましたが、ソメイヨシノを通じて繋がった仲間であるということをきっかけとして、それまで頑なだった桜子の心を開いていく様子が素敵でした。
皇族の生まれと軍属の肩書きから一線を引いていた周囲のクラスメイトとも少しずつ打ち解けていき、怒ったり、微笑んだり、豊かな表情と人間味が生まれていく桜子がとても可愛らしかった。
本来ならば、そうして楽しい青春を謳歌しているはずの年頃である彼らが、大人たちの都合で死と隣り合わせの戦場へと赴かなければならない、この不条理な世界を思うと怒りが込み上げてきます。
これまで国家のために死んでいった者たちの犠牲を無駄にしないために、皇国の象徴である自分の義務を果たそうと最前線を飛ぶたびに心をすり減らしていく桜子の姿がやりきれない……。
死者の存在が生者を苦しめるのであれば、いっそ靖國なんてぶっ壊しちまえばいのにと思ったくらい。
靖國へ還ってきた者たちの声が、せめて自分の代わりに誰かの幸せを願うものであって欲しい。
戦闘機乗りたちの血が滾る熱い空戦シーンなどというものはありませんが、若い登場人物たちの悲痛な心理描写が胸を抉って、ぽっかりと空いた穴を埋めるように人恋しくなれるラストでした。