神曲奏界ポリフォニカ ダン・サリエルと真夜中のカルテット (GA文庫) あざの 耕平 カズアキ ソフトバンククリエイティブ 2010-07-15 by G-Tools |
傲岸不遜で、唯我独尊な天才音楽家ダン・サリエル。しかし、彼に未曾有の危機が訪れていた。それはスランプ。過去にない大・大・大スランプから彼は脱出できるのか? それとも、引退するしかないのか!? 誰の言葉も耳に入らず、慰めも届かない。果たしてこの事態の顛末は!?
白銀の旋律、最終楽章へ
新進気鋭の天才音楽家。けれども性格は最悪なダン・サリエルと愉快な仲間たちの日常を描く短編集。
スランプに陥るあまりロックにジャズ、レゲエと他の音楽に手を出して、完全に自分の方向性を見失っているダン・サリエル先生の迷走ぶりが痛々しいが、いつも以上に壊れた姿が笑える。
これだから音楽家とか、芸術家って奴らは、超面倒くせぇ! とはいえ、そうやって真剣に葛藤するのも音楽に妥協を許さない彼だからこそでしょうね。自分の腕が上がれば、おのずと求める理想も高くなる。今回のスランプもそういう過去の自分を乗り越えるために必要な時期だったんじゃないかなぁ。
「ファンなら、褒めろ!」というサリエル先生の叫びには、作者自身の声が込められているように感じられてならない。批評に対するクリエイターの憤激は、酷評サイト管理人の愛咲としては耳が痛いですが、別に作品に悪意を持って酷評をしているわけじゃないのよ?
客からクレームのこない職業なんて、この世にないです。ならばこそ、無駄と斬り捨てるか、糧としてより一層奮起するか、あとは本人がどうそれと向き合うかの問題だと思う。
サリエル先生の場合は自業自得というか、規則的に仕事をする習慣をつけたほうがいいんじゃないかな。仕事中に雑誌読んだり、遊んだり、そのときの気分で作曲していたら、そりゃ勘も乱れるよ!
スランプを復活したはいいが、謙虚といいつつも、その真逆を行くサリエル先生のいつもと変わらぬ自信過剰な態度を眺めていると、余計な心配をしていたのがバカバカしくなってきました……。
アマディアにもついに自分の将来と向き合う試練の時が来ましたが、サリエルとカルネリの言い争いは、あれでは二人して、まるで大きい子供ですね。同属嫌悪というか、同レベル?
いつかアマディアがサリエルの『宿敵』と名乗れる日がくるのでしょうか。二人の名前の元ネタからして、そこが作者が描きたかった終着点なんだろうな。それで結局、メインヒロインは誰なんだ……。
これにてひとまず幕を下ろすとのことですが、この4人のドタバタはいつまででも読んでいたかっただけに名残惜しい。いつか続きを書いてくれることを願っています。