ダフロン

2009年11月03日

末代まで!/猫砂一平

4044748012末代まで! LAP1 うらめしやガールズ (角川スニーカー文庫)
角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-11-02

by G-Tools

幽霊たちの祟りの罠にはまり“心霊研”に入部することになった俺は、超スピードで疾走する“老婆走”の騎手に。パートナーは幽霊のお岩。気持ちが合わなくてはレースには勝てない!?決死の特訓、意外なライバル、幽霊と妖怪たちの怪しいレースを切り抜けろ!恋とババアのデッドヒート、スタート

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 ババアレースに青春をかける男子高校生と"お岩さん"の学園スポ根ラブコメ。

 うん、普通以下だった。別に大賞への期待感が大きすぎたからとかそういう理由ではない。
 滅多に出ない大賞受賞ほど信用できないのは、どこのラノベレーベルでも共通な気がしますが、タイトルを見た時点で、「ああ、これは絶対にコケるな……」と確信していた。
 実際、ネタに走ったそのままの勢いでピリオドの向こう側へ突き抜けていってしまった感。

 そもそも設定がつまらない。『ターボばあちゃん』に乗っての競争とか絵的に地味だしダサい。
 最初読んだときはあまりの下らなさに苦笑を禁じえないが、読み進めて冷静になってくると非常に苦しいものがあります。一発ギャグを物語の根幹テーマにするのは明らかに失敗。

 というか、乗り物はババアに限定しない方が面白いんじゃないか?
 「ただ乗り物の足が速いだけでは勝てない!」みたいな異能バトル風の駆け引きを演出したいのであれば、騎手の霊能力だけでなく乗り物についてもバリエーションを持たせるべき。
 確かに最高速度としてはババアが妖怪界最速なのかもしれないが、足は遅いけれどその代わりに特殊な能力を持っていて妨害できるとか、騎手の能力と相乗効果を発揮できるなどした方がより深い駆け引きが生まれる。

 都市伝説なら『首なしライダー』でもいいわけだし、都市伝説がありなら『ねこバス』や『偽列車』でもいいはず。西洋なら『デュラハン』と『コシュタバワー』の黄金コンビですよね。
 日本の妖怪なら、炎を出して攻撃できる『火車』とか、落馬した相手を問答無用でリタイアさせる『山犬』、ライバルの思考を読める『サトリ』、一歩のスライドが大きい『手長足長』、ダメージを受けてもいくらでも再生する『八岐大蛇』、自動車が妖怪に転じた『つくも神』など、考えれば乗れる妖怪いっぱい出てきそう。むしろ霊能者なら式神くらい召喚して走らせようぜ。
 コースにも障害物があった方がいいですね。『びしゃがつくゾーン』とか、『天狗礫ゾーン』とか。給水ポイントは『迷い家』とか起伏に富んだコースがよい。ぱっと思いついただけ挙げてみたが、怪談をテーマにするのであればババアに拘る必要はない。

 当初はババアレースを嫌がっていた三号も、なし崩しにレース参加を受け入れるようになっていったり、突如として結界術の才能を発揮したり、トントン拍子に事が運ぶのでかえって張り合いがない。
 ババアレースにやる気を出すようになったり、ナイヨレンを嫌うお岩の気持ちを理解するようになったのが「記憶を追体験したから」というのも、いかにもあっけない。
 お互いに主義主張の異なる者同士がぶつかり合って、相互理解をしていく過程が青春スポ根ものの醍醐味なんじゃない? もっと彼らの葛藤や衝突を描かなきゃいけないんじゃないかと。

 むしろ主人公にハンデがあってもいい。『幽霊アレルギー』とか、『速度恐怖症』とか、「幽霊とレースするのにそれはどうなの?」と読者に思わせるようなキャラ設定をもたせた方が、それを乗り越えて成長していく姿が描ける。
 マジカルリサたんとの一騎討ちはガッカリ。最後の省略しちゃダメだろう、一番燃えるところじゃないか。

 全体的に、世界観の膨らましが足りない。この設定ならいくらでも練れるのに活かしてない。
 もっと物語の魅力を引き出せる方法もあるのに横着をして、その結果として損をしている。
 なにより発展性が感じられない。シリーズとしてやっていくなら、ここからさらにスケールを広げていかなきゃならないのに能力や目標の上限が早くも頭打ちになってしまっている。
 2巻だと、これきっとかませ役に「ババア暴走族」とか、「ババアドリフト族」とかチープな敵対勢力が出てくるんだぜきっと。おおむね先の展開が読めるんだよ。

 この作品のなにを見て、大賞にしたのか。審査員の霊感を疑う。
posted by 愛咲優詩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 角川スニーカー文庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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