![]() | 桜の下で会いましょう (HJ文庫) 久遠くおん ホビージャパン 2009-08-01 by G-Tools |
料理好きの高校生の加賀谷涼は、ある日秋に咲く謎の桜に誘われて、不思議な洋館へと迷い込む。そこで純白のドレスに身を包んだ少女・桜花と友達となるが、その日を境に彼の目には奇妙な青い線が映し出される様になっていた。そして謎の力を得た涼は、桜花をめぐる戦いに次々と巻き込まれていく。
永遠の園に咲く、桜の少女との出会い
時季外れの桜が咲く不思議な洋館に住む少女とそこへ迷い込んだ少年とのボーイミーツガール。
一年中の草花が咲き乱れる不思議な世界に迷い込んだ主人公・涼と従妹の翼が、そこで暮らす妖精のような少女・桜花と出会い。最初は翼の付き添いのように桜花と接していた涼が、純真無垢で外の世界を知らない桜花と会ううちに、彼女のことが大切な存在へと変わっていく過程が優しくて素敵でした。
料理上手な涼が、毎日こっそりと翼の弁当を作ってやったり、いかにも西洋風お嬢様の桜花に日本の庶民料理を振る舞うところが好きです。
千鶴先輩の汚い部屋を目にして有無を言わさず掃除を命じるなど、彼の几帳面さが窺えます。
最近のラノベの主人公といえば、とにかくヘタレ系男子ばかりの風潮の中にあって、家庭的だけれども言いたいことはキッパリ言い、行動にもしっかりと主体性をもった主人公像は好みでした。
外の世界に出れない桜花の正体を知っても、友達として受け入れただけでなく、桜花に本物の世界を見せてあげるために千鶴先輩に弟子入りして研究を始めるなどは、涼にとっては純粋に優しさから出た行動だったのだけれども、研究に没頭している間に翼とすれ違っていってしまうところは切なかった。
しかし、別に涼が翼より桜花や千鶴先輩を選んだというわけではなかったかと。
翼もそれまで意識していなかった涼への恋心に気づいて、気持ちが動転してしまっていたんだろうな。
本当にただのお節介焼きな性分から桜花や千鶴先輩と親しくしていただけで、涼にはみんなが大切な存在で誰も見捨てたくないと心から信じていたんじゃないかと思います。
そこまではただの思春期の男女のすれ違いで済めばよかったんですが、間が悪く桜花の力を狙う敵に襲われ桜花の世界の消滅を招いてしまい、皆を助けるために涼が自分を犠牲になってしまうのですからやるせません。
でも、ラストは綺麗にまとめたハッピーエンドでよかった。
文章上、構成上でちょこちょこ至らない部分は目につきますが、それを補ってあまるボーイミーツガールのストーリーに仕上がっていたので、新人としては十分に上出来の部類でしょう。
次回作にも期待したいと思います。