魔法少女を忘れない (集英社スーパーダッシュ文庫 し 4-2) しなな 泰之 集英社 2009-06 by G-Tools |
ある日突然やってきた妹、みらいと共に過ごすようになって半年。高校生・北岡悠也は、まだ彼女との距離感を掴めずにいる。わからないことだらけの妹について、知っているのはたったひとつ――みらいが昔、“魔法少女”であったこと。
それは魔法のような奇跡の恋
ごく普通の男子高校生と元"魔法少女"の義妹とのほんのり切ないラブストーリーです。
これはベスト。なにがベストかというと話の素晴らしさはもちろん美麗な絵との相性やすべてがベスト。
これまで一般的な社会や学校とは無縁の生活をしていた世間知らずのみらいが、主人公・悠也の悪友たちやヘンテコな女教師に見守られながら高校生活に馴染んでいく。
鈍感な悠也と能天気なみらいの義兄妹ののんびりとした時間が流れる日常風景に癒されました。
お兄ちゃんのベッドに寝転んでパンツ丸出し漫画を読み漁っているみらいが可愛くって大好き。
無邪気な彼女ののほほんとした笑顔には、こちらまでつい自然と頬が緩んできてしまいます。
どんなことでも珍しがって、大喜びで楽しんでくれるものだから、一緒にいる方も嬉しいですよね。
何気ないショピングから、海水浴や学園祭。目一杯いろんなイベントを体験させて楽しい思い出をたくさん作ってやりたいと願う悠也の気持ちも分かるなぁ。
しかし、楽しいことばかりではなく、みらいのことを知るうちに"魔法少女"の悲しい宿命に突き当たる。
兄としてみらいに恋愛をする喜びを教えてやりたいと思ってしまったために、それまで仲の良かった幼馴染の千花や親友の直樹との関係が崩れていくところは、誰が悪いわけでもないだけにとてもやるせなく、すれ違うばかりで思うようにいかない青春のほろ苦さを味わうかの如く非常にもどかしい葛藤に悩まされました。
みらいに対しては、いいお兄ちゃんに振る舞っていたけれど、そのずっと前から千花の想いを見過ごしていて、目の前で義妹とイチャイチャしてるんだから悠也も罪作りな男だよなぁ。
個人的に妹にしたいのはみらいだけれど、恋人にするなら千花かなー。そっちの方が両手に花だぜ。
というか、作中では硬いセリフからもっと大人のイメージがあるのですが、実際はみらいよりも背の低いちびっこというギャップがー。
ラストはまさしく言葉では言い表せない感動の嵐! 全俺が絶賛した!
夜空から降りそそぐ淡雪のように儚く、切なさと優しさがまじり合った雰囲気が美しすぎる!!
この手の作品だと、エピローグに後日談があるものですが、この話に限ってはこの終わり方がベスト。
これより先の描写は蛇足にすぎて話の調和を壊してしまう。
作品の一番美しいシーンでピリオドを打つ。これが読了後に美しい余韻を生んでいる。
多くを語らない美学というのがわかってない作家さんが多すぎる。そんなのお伽噺の最後で「めでたし、めでたし」の続きを描こうとするようなもんですよ。
その点、この作者は新人にしては勇気ある行為だったと思いますね。というか、ヒロインを可愛く書くことに並々ならぬ情念を感じると思っていたらこの人『スイーツ!』を書いていた人だったか!? あれは正直、話が無茶苦茶だったけどヒロインの描写だけは特筆すべきものがあったなぁ。
できれば今後もこのクオリティを持続してくれるうよう願いつつ、次回作も期待。
![]() | スイーツ! (集英社スーパーダッシュ文庫) しなな 泰之 by G-Tools |
気になる箇所としては「魔法少女は恋ができない」だったかな。ここらはいらないというか正直ミスリードな部分ではないかと思いますが…それをあわせても、かなり好きです。
確かに前提として「恋ができない」と断定してしまうのは、ちょっと誘導でしたね。
ならみらいの悠也への想いはどうなるのかとも思うし。
まあ起こるはずのないことが起こったからこそ、奇跡なんですよ。