![]() | 花守の竜の叙情詩 (富士見ファンタジア文庫) 淡路 帆希 富士見書房 2009-06-20 by G-Tools |
王位継承に敗れた第二王子テオバルト。そして、その王子の国が侵略した国の王女エパティーク。願い事を叶える伝説の銀竜を呼び出す生贄としてエパティークは旅に出る。支配した者とされた者。互いを憎みながらの長い旅が始まる

滅亡した国の王女と侵略した国の王子が伝説の銀竜を求めて旅に出る愛と憎しみの物語。
う〜ん、緻密な文体と繊細な心情で描かれた重厚なファンタジーではあるが、キャラに魅力はないし、ストーリーも先が読めるし、品質だけはとても高いものがあるんだけれど面白くはなかった。
私は『ファンタジーにはロマンが必要である』という信念があって、「この世界で暮らしてみたい!」と思わせるような”夢”と”希望”をファンタジーという世界に求めているので、この作品のようなリアリティ重視で人間の生々しい感情を顕わにしている作風には興味が持てないんだよなぁ。
苛烈な独裁者としての父王の悪行を知らず、王女として傲慢に育ったエパティークが、旅の間に祖国の荒廃した有様を眼にして心を入れ替えていく成長っぷりが、なーんかいかにも白々しくて、後半の聖女の如き言動や描写が浮いちゃってないですかねぇ。
テオバルトも第二王子にも関わらず冷遇される不条理に打ち負けていないで、自分に許せないもの、譲れないものがあるのならば、それを守るために立ち上がるべきなんですよ。それなのに人が醜くて、汚いというだけで絶望して、周囲から目と耳を塞いでしまって見たいものしか見ようとしていない、だから本当に美しいものがわからなくなるんだ。
まあ旅の途中で加わったエレンにだけは、二人ともいいお父さんお母さんやっていましたね。
エレンかわいいよエレン・・・・・・。無邪気で健気な幼女。愛されるためにいい子になろうと振る舞う素直さがとっても傷ましい。う、うちの子になればいいんじゃないかな!
うああああぁん! この子に可愛い洋服を着せて、たくさん玩具やお菓子を買ってやって、御馳走をお腹いっぱい食べさせてやりたいよおおおおおおおおお!!!
明日、飢餓地域の子供たちのための募金箱にお金いれてこようと思わせるのに十分な威力でした。
しかしエパティークとテオバルトの改心はまだしも、二人の間にどうして恋愛が芽生えたのかは最後まで納得できなかったな。エパティークの側はストックホルム症候群っぽいし、テオバルトはそんな彼女の献身さに人間不信がぐらついた程度じゃなかったか。
銀竜伝説の真偽のあたりは、何を言えばいいのかちょっとコメントに困りますね。作者と担当者が推敲の末に出したファイナルアンサーがこれなのかよと、呆れとも驚きともつかない気分に陥りました。いや、順当な結末だとは思うんだけれども、もうひと捻りあるだろう普通。
そして最後の章は完全に蛇足でした。無い方が二人の別れのシーンで美しく終われていたのにね。
儚くも物悲しい美しい話ではあるのですが、個人的な面白さのベクトルとは逆方向を向いてしまっていたので、残念ながら恒例のバッシングタグをつけさせて頂きました。
でも、多分、この作品は私以外にはウケると思うので、未読の方は一読の価値ありです。