![]() | 時間商人 トキタと命の簒奪者たち (ガガガ文庫) 水市 恵 小学館 2009-06-18 by G-Tools |
時間商人トキタは、とある都会の片隅で、不老不死の時間を売っている―。世間を騒然とさせ続けた無差別連続殺人事件の裏でも、トキタは粛々と営業を続けていた。彼はどんな顧客も諸手を挙げて迎え入れる。ある日、訪れた客はトキタに尋ねる。「死刑囚を不老不死にすると、どうなりますか?」。
ビジネスライクな詐欺師たち
第一話
自殺志願者の少年が同じく自殺志願者の少女と出会って不老不死を願うお話。
この展開と結末は読めました。というか、よく考えれば不審なことに気づくと思うのだけれど、テンパってる状態なら騙されるのも仕方がないのか?
相手が精神的に弱っている時につけこむ、詐欺師の巧妙な手口ですね。私も見習いたいものです。
しかし、トキタはビジネスというならば、もっと倫理観を気にかけて客の価値にも拘ったほうがいいよね。
第二話
不老不死には興味のなかった少女が、事件に巻き込まれていくお話。
これも衝撃的な話でしたね。事件に遭遇した晶子の怖がりっぷりが、やや極端すぎる気もするが、誰でも一度は『いつか死ぬんだ』ってことが怖くてたまらなくなってパニクったこともあるだろうし、彼女の場合はそれがこの時だったということか。
うーん、けれど彼氏や家族に送り迎えして周囲に守ってもらえば、不老不死を願うほどのことでもないような・・・・・・・。相手が冷静でないのはわかっていながら取引を進めるトキタもやはり詐欺師だよなぁ。
第三話
有名彫刻家の父親が虐待を受ける娘を助けようとする話。
怖っ! なんという歪んだ家庭でしょうかね。これだから芸術家ってのは・・・・・・それは偏見か?
しかし、こういう妹も、ヤンデレで可愛いと言えなくもない。兄貴がもう少しうまく妹をコントロールできていたら、こういう倒錯した関係もバレず、父親にも見つからなかっただろうし、周囲に被害が広がるようなこともなかっただろうに。ヤンデレ妹の兄というのも何んらかの資格が求められるものかしら。
第四話
二人の刑事が殺人犯を追い詰めるお話。
私ですら犯行のやり方が拙くて、証拠隠滅も雑すぎると思ったのに、そんな犯人を捕まえるのに何年もかかってて日本の警察は無能なのかなぁ。
トキタがどこかの時点で犯人と取引を止めていたらこんなに死人が出ることも・・・・・・、って、よく考えたら、犯人側も取引を続ける理由はなかったような。不死じゃなくなったら、また自分の体を傷つければいいだけだし。
やはり、芸術よりも殺人がクセになってしまっていたんじゃないかしら。
ヤンデレ妹が兄を不老不死にして守っているところに兄妹愛を感じて萌えなくもない。これまでいろんな人の寿命を奪って生きてきたのに、兄の時間は奪っていませんからね。かすかな情は抱いていたのではないかと。
ラストでは、いままでのお話がこうやって繋がってくるのか! と毎度の事ながら感心してしまう。
郷田の正体は話し口調からは全然気づかなかった。やはり文章だけ切り取ってみていると、先入観や錯覚がどうしても交ってしまうんだよなぁ。そして作者はその隙を突くのが上手い!
ストーリーの周到さ、計算高さにかけては、ここピカイチの実力を見せる作家ですね。
そして暗黒ライトノベル好きとしてもこの容赦のない腹黒さは大変に魅力的です。これはオススメ!