ラドウィンの冒険 (電撃文庫) 水藤 朋彦 アスキーメディアワークス 2008-12-05 by G-Tools |
少年ラドとセネマは、騎士の試験を受けるために立ち寄ったとある街で、貴族の少女・エニルと出会う。しかし彼女は、なぜかラドだけにしか見ることができず、生まれた記憶すら持っていなかった。どうやら精霊であるらしいエニルの記憶を取り戻すため、ラドは共に旅に出ることを決意する。
お嬢様のお気の向くまま
記憶消失の精霊の少女エニルと見習い剣士ラドが織り成す剣と魔法の物語。
正統派ファンタジーというには、ちょっと毛色の変った作品かもしれませんね。
ワガママというほどでもないけれど、したたかなお嬢様といった性格のエニルが、思い立ったが吉日とばかりに自分の勘と信念のおもむくままに突き進み、ときには大胆な行動で騒動を起しながらもラドたちを旅に導いて、物語をぐいぐい牽引していく姿が素敵でした。
精霊を見ることができ、魔法の才がありながら魔法を嫌っているラドですが、記憶喪失のエニルの正体と消滅を避ける方法を見つけると約束してしまったせいで、大食いの彼女にご飯をたかられたり、使いたくもない魔法に頼ることになったり、幾度となく振り回されつつも、旅を続けていくうちに自分自身から逃げていたことに気がつき、自分を見つめ直していくところが良かったです。
途中、話の間に出てきた精霊の棲む家は、なんか心が温まりますね。持ち主が大切にしていた道具たちに精霊が宿り、主がいなくなったあとも、いつか帰ってくると信じて家を整えて待っている道具の精霊たちが健気でかわいらしい。そういえばエニルはいかにも元気いっぱいで、あんまり精霊や妖精といったイメージじゃないなぁ。むしろ世間的というか、世慣れてあつかましい。まあ一緒にいると賑やかで楽しそうな子だとは思いますけどね。
しかし、全体的にこじんまりと普通にまとまっていて、イマイチ個性がどこに現れているのかが掴めないですね。問題はインパクト不足かな。どうしても平凡なストーリーとキャラクターで、つまらなくはないのだけれど無難な出来で面白味がないというのが本音だなぁ。
しいて言えば、展開がぬるぽ。もっと極端なくらい毒が入っててもよかった。編集から書かされている感があったかな。新人なんだから、もっと冒険しなきゃダメですよ。そう簡単に出来ないとは思いますが。