〈本の姫〉は謳う 4 (4) (C・NovelsFantasia た 3-5) 多崎 礼 中央公論新社 2008-09 by G-Tools |
バニストンに戻ったアンガスを待っていたのは、戒厳令の布かれた街で地下活動を続けていたアンディだった。エイドリアンとウォルターが収容所に送られたことを知ったアンガスは、街の開放のために行動を開始するが・・・。
そして世界は、恋をして・・・
人に害をなす邪悪な文字(スペル)を回収するため、本に封じられた「姫」と旅を続ける少年アンガスの物語。シリーズ完結。
読んでいてすごく胸が苦しかったけれども、最後まで読むと素直によかったと思えた。
弾圧を受けて燻っていたバニストンの人々が、「姫」の歌声によって希望を抱き、一斉蜂起する。
一人一人はちっぽけな存在でも、歌が彼らの魂を繋ぎ、やがて大きなうねりを生み出す。
「我々は一人ではない」。その言葉は、友が、恋人が、兄弟が、息子が、娘が、前にも先にも果てしなく続いていくたくさんの命の連なりを高らかに謳い上げている。
人間がもつ生命力の力強さ、逞しさ、雄々しさが満ち溢れ圧倒されてしまいました。
しかし、直後バニストンを襲った悲劇は喜びに沸く人々をより深い絶望のどん底に叩き落とす。
大切な人を失って初めて他人への殺意の重みを知り。憎悪に黒く塗りつぶされていってしまうアンガスの心中を見ているのは、正直しんどかった。
私もアンガスの持つ希望を信じていただけに残念な、とても切ない思いにかられました。
作者は、世の中には綺麗事ばかりでなく、それでもどうしようもない悪しき不条理が満ちているということを、とても真剣に伝えようとしてくれたのでしょう。
それでも失ってしまったもののあまりの大きさに打ちのめされます。
そしてバラバラだったアンガスとアザゼルの物語が、ついに融合するクライマックスは圧巻でした。
姫の歌にそれまでの恨みも、憎しみも、怖れも、すべてが消え去り、ただ世界の美しさを知る。
すべての文字(スペル)を回収した姫の魂は役目を終え、愛する人の元へと帰っていく。
この『世界』で生きるアンガスとセラは、未来へと歩みを進める。
たった四巻なのに信じられないほど緻密かつ精巧、壮大なハード・ファンタジーでした。
むしろ全体的に展開が駆け足気味で、これだけではあまりに短すぎてあっけないと思ってしまうくらい。
もっとアンガスと愉快な仲間たちと旅をして、この美しい物語の世界に浸っていたかった。
この本のことは絶対に忘れない。姫の歌声は私の魂にいつまでも響いていることでしょう。