ダフロン

2019年02月14日

鏡のむこうの最果て図書館 光の勇者と偽りの魔王/冬月いろり


空間が意思と魔力を持ち、様々な魔物が息づく世界・パライナの北端に、誰も訪れない《最果て図書館》はあった。記憶のない館長ウォレスは、鏡越しに《はじまりの町》の少女ルチアと出会い「勇者様の魔王討伐を手伝いたい」という彼女に知恵を貸すことに。


 それは物語の勇者のように

 勇者と魔王の決戦を影で支えた少年と少女の《誰にも語り継がれないお伽噺》

 タイトルでピンときた方もいると思いますが、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』ですね。
 いつの頃からか《最果ての図書館》の館長をしている少年・ウォレスが、ある日、倉庫で見つけた姿見が、何故か遠くの街に住む少女ルチアの元と繋がって、離れた場所で紡がれる交流が優しい。
 世界観はファンタージエンではありませんが、その影響を思わせるオマージュになっています。

 落ち着いて大人びた少年ウォレスと、お転婆で活発な魔女見習いのルチアの掛け合いが愛らしく、ルチアの悩み事をウォレスが知恵を出して解決するという相棒と呼べるような関係性がいいですね。
 図書館の外に出ることができないウォレスと、魔物が活発したせいで街から出れないルチア、お互いに遠くの土地への憧れを持っている者同士が交流する文通のような楽しさや喜びが伝わってきます。

 魔王の存在によって世界に危機が迫っている。魔王を倒すために勇者が旅立つ。英雄譚とは無縁の脇役のつもりだったウォレスもルチアですが、勇者を影で支えていくようになっていく構成が巧みでした。
 勇者と魔王の立場がひっくり返るというのは、まさに『はてしない物語』で描かれていたストーリーですね。ウォレスの過去が明かされ、物語の重要な役割を担うところは思わず会心の笑みが浮かびました。

 飛竜に乗って駆けつける場面とか、まさしくフッフールで夜空を飛ぶ映画の名シーンじゃないですか。
 お守りとか、魔法の剣とか、隠れ蓑とか、登場するアイテムの数々も「そういえばこういうの、あったあった」と、懐かしさがこみ上げてきます。ライトノベルとしては、現代風ではないかもしれません。派手さはありませんが、綿菓子のようにふわっと甘い作者のファンタジーへの愛が感じられる作品でした。

ファンタージエン 秘密の図書館
ファンタージエン 秘密の図書館
posted by 愛咲優詩 at 00:00| 電撃文庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月12日

つるぎのかなた/渋谷瑞也


かつて“最強”と呼ばれながら、その座を降りた少年・水上悠。もう二度と剣は握らないと決めた彼はしかし、再び剣の道に舞い戻る。悠を変えたのは、初めて肩を並べる仲間たち、彼に惹かれる美しき剣姫、そして高校剣道界最強の男・快晴。二人が剣を交えた先で至るのは、約束の向こう、つるぎのかなた。


 蒼天の剣が嵐雲を斬る

 つるぎのかなたを目指し、剣道にすべてを捧げる高校生たちの青春剣道物語。

 この話の本当の主人公は最強に憧れを抱いて成長した剣道少年の快晴くんだと思う。悠がラスボス。
 かつて最強と称されながら剣の道を捨てた主人公・水上悠が、高校の剣道部に勧誘され、様々な仲間と出会い、試合を繰り広げるうちに眠っていた闘志に火がつき、再び剣の頂きを目指す勇姿に痺れました。
 ちなみに私も元剣道少年でしたが、作中の描写は誇張無しでありえます。リアリティに忠実です。

 正直、悠とかいう鬱屈ヤローはどうでもいんだ。快晴くん、悠の前に立ちはだかる強面なライバルキャラかと思っていたら、実は悠に憧れるガチファンで、ものすごい純情な青年で愛着がわいてしまった。
 その妹の吹雪ちゃんも可愛いのに剣道一筋で、それ以外は不器用な何もできない残念美少女だけれど、何かというと斬るか殺すかで考えるマジ物騒な思考回路が見ていて楽しいんです。この兄妹しゅき!

 なにより試合の立ち回りの剣劇描写が傑出してるんですよね。足運び、竹刀の打ち方、受け方、選手が一瞬で判断し、相手を追い詰めていく攻防を卓越した疾走感、重厚感で見事に描ききっています。
 心は相手への敬意と高揚感に溢れていながらも、鬼の形相と野獣の咆哮で剣を振るう姿に圧倒されます。相手が憎いからではなく、お互いに高め合うために剣を交える。これぞまさしく剣道の理念。

 しかし剣道用語や習慣を普通に使いすぎて、経験者でもないと理解が難しいところがあります。団体戦を描く上で登場させる必要があるにしても、脇役が多すぎてキャラ書き分け切れてないのが惜しい。
 それでいて一人称の視点が一貫していないので読んでいると忙しなく感じてしまいます。猛々しい勢いが文章全体から伝わってきますが、もう少し読みやすく整理できていればなぁと。次回の団体戦に期待。
posted by 愛咲優詩 at 00:00| 電撃文庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

撃ち抜かれた戦場は、そこで消えていろ 弾丸魔法とゴースト・プログラム/上川景


“弾丸魔法”による凄絶な戦争が続く世界。戦火の中、亡霊を名乗る少女・エアより、被弾者の存在・功績を消滅させる“悪魔の弾丸”を入手した少年兵のレインは、世界を再編成する戦いに挑むことになり


 その銀の弾丸は世界を撃ち抜く

 悪魔の弾丸を手にした少年少女が戦争無き世界を目指して戦うミリタリックファンタジー。

 これは紛れもなく最高傑作級。まさかガチの才能がファンタジア大賞から出てしまったどうしよう?
 撃った相手を最初からいなかった世界へ再構築する"悪魔の弾丸"を手に入れた学徒兵・レインが、百年間続く東西戦争に終止符を打つために古の天才魔導士エアとともに人知れず世界を改変していく。戦術と戦略に魅せられ、それぞれの想いから戦いを止めるために戦いに向かう彼らの決意に胸を打たれました。

 この作品が素晴らしい点はいくつもあるが、なにより"悪魔の弾丸"というアイテムがこの物語を唯一無二たらしめている。敵の将官を撃てば最初から侵攻がなかったことになり、戦死者や犠牲者も生きている世界へと書き換わる。そんな魔法の弾丸を軍学校の学生でありながら卓越した魔術戦闘力と、クレバーな頭脳を備えたレインが手に入れたことで、戦況をひっくり返していくというストーリーに引き込まれる。

 レイン一人だけでなく、その弾丸を作り出した亡霊・エアという百年前から生き続ける魔女もレイン以上の凄腕魔導士で、そんな二人がタッグを組んで戦場を駆け抜ける姿に燃えずにはいられない!
 しかし、標的である敵将もまたエアの"悪魔の弾丸"ような超常の異能を備えた存在であり、自分の力を如何に使って相手の裏をかいて戦場を支配するかという駆け引きのある異能バトルに唸らされる。

 圧巻の臨場感と迫力満点で描かれる戦闘シーンや、怒涛の展開の連続に興奮を揺さぶられました。
 己の目的のためのいきずりの契約相手だった二人が、次第に相棒として信頼しあって戦いの中で紡いでいく絆に感動しましたね。恋人でも、戦友でもない、自分と同じ境遇の存在の共感とでもいうべきか。
 早くも今年一番の新作が決まってしまったなぁ。これだから新人賞を漁るのがやめられないんだ。
posted by 愛咲優詩 at 00:00| 富士見ファンタジア文庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする